第17話 奪われる前に奪うと決めた日
厨房の前に辿り着いた私は勢いよく扉を開いた。
バンッ!
するとそこで働いていたシェフに料理人たちが一斉に驚いたようにこちらを振り向く。
「皆っ!お茶とお茶菓子を貰いに来たわ!」
そしてツカツカと厨房の中へ入るとシェフの前でピタリと足を止めた。
「はい、すぐにご用意致します。が…」
シェフは私を見ながら尋ねて来た。
「奥様、何か…ありましたか?」
「フフフフ…ええ、あったわ。私のやる気が出てくるような物凄い事がね…」
私は肩を揺らして笑みを浮かべながら先程のマリア嬢の話を思い出し、再度デニムに対する激しい怒りが込み上げてきた。今までの私はデニムのお見合いをぶっ潰してやる事だけしか考えていなかったけれども先程の話しで考えを新たにした。
「どうやら今までの私のやり方はまだまだ手ぬるかったみたいね…だから今日からは徹底的にやらせて貰うわ。もう見合いをぶっ潰すだけなんて手ぬるい事なんか言ってられないわ。あいつが私の物を奪おうとするなら、今度はこっちから逆に何もかも奪ってやるんだから…!」
怒りに身をたぎらせ、ぶつぶつ言う私に恐れをなしたのか料理人たちは私を遠巻きにしてヒソヒソ声で話している。
「おい、奥様の様子何だかおかしくないか…?」
「まずいまずいまずい…怒らせたら一番ヤバイタイプだ…」
「無理も無いだろう?離婚もしていないのに見合いなんて…」
「あ、あの~…それで奥様。一体お茶とお茶菓子は何を御用意すればよろしいですか?」
シェフがおっかなびっくり私に話しかけてきた。
「ええ、そうね。紅茶とパウンドケーキにして頂戴。そしてパウンドケーキのドライフルーツにはラム酒たっぷり、そして紅茶には度数の高いブランデーに砂糖をたっぷり入れて頂戴。入れるのはデニムの分だけで構わないわ。どうせあの馬鹿舌には甘ければ味なんてどうだって構わないのだから」
私は腕組みしながら言った。確か今日の見合い相手は2人共お酒が大好きだとあったからきっと喜んでくれるだろう。
「あ、あの~それなんですが…今からケーキを作るとなると最低1時間はかかるのですが…」
シェフが困った様に言う。
「ええ、そうね。だからその前にウィスキーボンボンのチョコレートがあったでしょう?あれをコーヒーと一緒に出す事にするわ」
「え?奥様…ひょっとしてお見合いの腹いせにアルコールで酔わせようと考えておられるのですか?」
「う~ん…アルコールはついでよ。私の本当の目的はそこじゃないから」
「え?」
シェフは訳が分からないと言った様子で私を見ているけれども、私にはある計画があった。これがもしうまくいけば、デニムにとって相当痛手になるはずだろう。
「はい、それじゃ私はここで待っているからコーヒーとウィスキーボンボンの準備をお願いね」
そして私は空いてる椅子に座ると、お茶菓子セットの準備が終わるの待つことにした…。
それから約20分後‥‥
「お待たせ致しました、奥様」
シェフはワゴンにコーヒーサイフォンにウィスキーボンボンがお皿に乗ったワゴンを私の前に運んできてくれた。
「おおっ!これは本格的ね。では早速お見合いの席に行って来るわ!」
私は意気込んでワゴンを押すと『太陽の部屋』へと向かった。
今回一番重要な、あのアイテムをお見合いの席に持参して―。
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