第16話 お見合い相手の目的は

「ところでデニム様と結婚したら、豪華なドレスにアクセサリー、それに一流家具職人の手によって造られた美しいアンティーク調ベッドやドレッサーにクローゼットの数々…それらが全て揃ったお部屋をまるごとプレゼントして下さる約束なのだけど…事前に見学させてもらえる事は可能なのかしら?」


私のすぐ後ろを歩きながら話しかけてくるマリア嬢に思わず足がピタリと止まった。


え…?今この令嬢は何と言った…?


「あ、あの今何と仰ったのでしょうか?」


何故か非常に嫌な予感がしたので、私はマリア嬢を振り返ると尋ねてみた。


「ええ、ですから『レディの間』と呼ばれるお部屋とお部屋の中にある贅を尽くしたドレスや調度品を丸々頂けるのよね?と伺っているのですけど?」


「な…何ですって…?」


私はその話を聞いて青ざめた。『レディの間』と呼ばれる部屋は私の自室である。贅を尽くした…等とマリア嬢は言ってが、別に贅を尽くしたつもりはないし、それらの予算は結局は我が実家からコネリー家へ資金援助したお金で購入したものだ。おまけに実際に領地経営をしていたのは私と義父で、義母にデニムは遊び暮らしていた。つまり私と義父が働いて得たお金ともいえる。あの部屋にある私物の代金はコネリー家からは一切出ていないのに?!それを勝手にデニムは見合い相手に譲渡しようとしているのだ。

思わず怒りで肩が震える。


一方のマリア嬢は私の様子が突然変わったのを不審に思ったのか声を掛けてきた。


「ね、ねえ…貴女、大丈夫なの?突然黙ってしまったと思えば、今度は急に肩を震わせるし…」


「い、いえ。大丈夫です。何でもありませんわ。『太陽の部屋』までもう少しですので」


「え、ええ。分かったわ」


私は再び前を向くと、デニムの待つ『太陽の部屋』に向かって歩きながら思った。どうりでデニムの元にお見合い希望の令嬢達が集まってくるはずだ。何しろあの部屋にある品物は私が吟味してセレクトしたものばかりなのだから。アクセサリーにしろ、ドレスにしろ、家具だって…どれも最高傑作だと自負している。それらを餌にするなんて…!もはやデニムに対しては愛情の一欠片どころか、怒りと憎しみしか感じない。見ていなさい…!私は絶対に泣き寝入りなんかしないのだから…!



そして、敵であるデニムがいる『太陽の部屋』の前に到着したので私は足を止めた。


「マリア様、デニム様がおられる『太陽の部屋』に到着致しました」


そのドアには太陽の絵をモチーフにしたステンドグラスがはめ込まれたている。


「まあ、何て美しいステンドグラスなのかしら?」


マリア嬢がステンドグラス見ると目を見張った。その様子に私の中である悪戯心が芽生えた。


「ところでマリア嬢。何故このお部屋が『太陽の部屋』と呼ばれていると思いますか?」


「えっと…太陽が一番早く差し込む部屋…だからですか?」


「惜しいですね。実はこの部屋は1日の中で一番太陽の光が長く差し込むお部屋だから『太陽の部屋』と呼ばれているのです。ではノック致しますね」


私は扉に向き直るとノックをした。


コンコン


「お見合い相手のマリア様をお連れいたしました」


私の言葉にデニムが部屋の中から返事をした。


「ああ、中へお通ししてくれ」


「失礼致します。」


カチャリと扉を開けて、私はマリア嬢を連れて部屋に中へと足を踏み入れた。明るい日差しが差し込む室内の中央に楕円形のテーブルが置かれている。そこにかしこまった様子のデニムが座っており、私を見るとまたしても指をさした。


「あーっ!き、貴様はまた今日も性懲りもなく…!」


すると私の背後からマリア嬢が顔を出して首を傾げた。


「え?貴様?性懲りもなく?一体何の事でしょう?」


「あ!あ、貴女が本日のお見合い相手のマリア嬢ですね?い、今のはどうかお気になさらずに。ささ、どうぞこちらにお掛け下さい」


デニムは得意の笑顔でマリア嬢に言う。


「はい、失礼致します」


マリア嬢がデニムの向かい側に座るのを見届けると私は言った。


「では、後ほどお茶とお茶菓子をお持ちしますので、お待ち下さい」


私は頭を下げると『太陽の部屋』を後にした。


フフフ…デニム。待っていなさいよ。


今日も私が貴方のお見合いをぶっ潰してあげるから。


私は笑みを浮かべながら、厨房へと向かった―。

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