第15話 3人目のお見合い相手

 12時半―


デニムの見合い相手マリア・クラウスの出迎えに私は他のメイドやフットマン達と共にエントランス前に立っていた。出迎えの中にはクララやデニムのフットマンを務めるフレディもいる。


「奥様、本当に奥様自らが出迎えにいらして良かったのですか?」


メイド姿に扮した私にクララがそっと耳打ちしてくる。


「当たり前じゃない。夫の見合い相手を出迎えるのは妻である私の努めよ」


傍から聞けば随分滅茶苦茶な事を言っている妻だと思われるかも知れないが、クララは納得したように頷く。


「なるほど、言われてみればそのとおりかも知れませんね」


う〜ん…どうやらクララもかなり感覚が麻痺してしまっているかもしれない、というかここに並んで出迎えている使用人たちが全員理不尽な事をしているのは理解しているだろう。それ故、申し訳ないのかチラチラと私を見る使用人たちがいる。



その時…



ガラガラと音を立てて真っ白な二頭立ての馬車がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。

やがて馬車はエントランス前に到着すると、御者が降りてきて馬車のドアを開けた。


カツンカツン


最初に馬車から降りてきたのは見合い相手の父親であろうロマンスグレーの男性。そしてその後に男性のエスコートで続いて降りてきた女性は母親。そして最後にデニムの見合い相手の少女が降りてきた。

金の巻毛に胸元を強調した水色のドレスを着用した少女は中々気が強そうに見える。なるほど…確かにカジノが好きなタイプに見えないことも無い。


見合い相手の父親は私達を見渡すと言った。


「ところで見合い相手のデニム様は出迎えておられないのか?しかも当主も姿を見せていないようだが?」


あ…ひょっとするとこの男性、見合い相手のデニムが迎えに出ていない事を怒ってらっしゃるかもしれない。だって眉間がピクピク震えているもの。よし、ここはデニムの妻である私が代わりに挨拶するしか無いだろう。


「申し訳ございません。クラウス様。デニム様はお見合いの席でマリア様に最高のおもてなしをする為に準備をしております。なので私が代わりにご案内させて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」


適当にでまかせを言って、90度に頭を下げる。デニムが準備?そんな面倒な事あの男がするはずがない。大方夜ふかしをして、つい先程目が覚めて慌てて準備をしているに違いない。何しろあの男は無責任な人間だから。


「おお、そうなのか?それなら納得したぞ。」


クラウス家の当主は納得したように頷く。


「それでは当主様と奥方様は別室でお待ち下さい。私が案内致しますので」


後を引き受けてくれたのはデニムのフットマンのフレディだ。彼には予め見合い相手の両親の世話をするように命じて置いたので多分良いようにやってくれるだろう。



「では、マリア様。どうぞ私の後をついて来て下さいませ」


マリア嬢に言うと、彼女は頷いた。


「ええ、よろしくお願いするわ」



そして私はマリア嬢を伴い、デニムの待つ『太陽の部屋』へと案内することになった。



****


「ねえ、私にお見合い相手のデニム様ってどんな方なのかしら?」


歩きながらマリア嬢が尋ねてきた。


「そうですね。お顔(だけ)はとてもハンサムな方ですよ。それに無邪気な方ですね(偏食が多くて)」


「まあ、そうなんですのね?」


マリア嬢は嬉しそうに言う。


「ええ、それにお2人は趣味がきっと合うと思います」


歩きながら私は振り返ると、これから起こる出来事を想像し…笑みを浮かべた―。

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