第49話 驚かす男
その夜―
私は義父の執務室を覗いてみた。すると扉が少しだけ開いており、隙間から明かりが漏れている。そして斎机に向かって仕事をしているロバートさんの姿が目に入った。何か問題があったのだろか?眉間にシワを寄せて書類を眺めている。
コンコン
扉をノックした。
「はい?」
ロバートさんがこちらを見て私が扉のそばに立っている姿を見ると笑顔を向けた。
「やあ、フェリシアさん」
「こんばんは、お手伝いに来ましたよ」
扉を開けて中へ入るとロバートさんが心配そうな顔つきを見せた。
「でも…本当に大丈夫なんですか?」
「え?何がですか?」
部屋に入り込み、ソファに座るとロバートさんを見た。
「いえ、ずっとお忙しいようでしたので。メイドの仕事をされているんですよね?」
「ええ、そうですね。」
返事をすると私は伊達眼鏡とかつらを外した。
「でも、その姿も今夜で終わりですから」
「え?そうなのですか?」
「はい、大分あの憎たらしいデニムに今までの恨みを仕返ししてやったので気は晴れました。明日は1日中お仕事お手伝いしますよ。ただ明後日にはデニムと決着をつけるつもりなので、多分お手伝いは出来ませんが」
「え?明後日…なにかあるのですか?」
ロバートさんが目を見開いた。
「ええ、実は明後日はデニムのお見合いがあるんです。相手は誰かは分かりませんけど、そのお見合いで終わらせるつもりです」
「終わらせるとは?」
「離婚も成立していないのにクズデニムが見合いをするのを終わらせる事です。今は詳しいことはまだ話せませんが…きっと面白いことになりますよ?今からとても楽しみです」
「そうなんですね?では僕も楽しみにしています」
「ではお仕事お手伝いしますよ。ところで…先程何やら難しそうな顔をしていましたが…何かあったのですか?」
「ええ、実は…とんでもないものを見つけてしまったんです。この書類を見てくださいよ」
ロバートさんは書斎机の上に広げていた書類の束を私が座る向かい側のテーブルの上にバサリと置いた。
「こ、これは…」
私とロバートさんは互いの顔を見合わせた―。
****
23時―
「ふわああ〜…」
再びかつらをつけ、伊達眼鏡を掛けた私は自分が寝泊まりしている客室へ向かって歩いていると不意に背後から声を掛けられた。
「おい、その後姿…もしかするとメイか?!」
「!」
突然背後から大きな声で呼び止められ、危うく悲鳴を上げそうになった。ゆっくり後ろを振り返ると、そこには黄色い寝間着姿に何故かおそろいの黄色い三角帽子をかぶったデニムがカンテラを持って立っている。
「あ…こ、こんばんは。デニム様。こんな夜更けに寝間着姿で廊下に出て…一体何をされていたのですか?」
するとデニムは言う。
「ああ、誰かのせいで今夜のディナーを食べそこなってしまっただろう?その為、どうしても腹が空いて眠れなくなってしまったのだ。呼び鈴を使って使用人を呼ぼうにもなぜかベルは見つからないし…それでやむを得ず、自分で食べ物を探す為に厨房へ行ってつまみ食いをしてきた帰りなのだ」
「あ…さようでございますか」
つまみ食い…26歳にもなって、堂々とつまみ食いをしてきたと言うとは、やはり愚かな男だ。けれどベルを隠したのは正解だった。使用人たちの報告で、時間は関係なしにデニムに呼び出されて困っていると知らせを受けていたので、実は本日デニムに見つからないようにこっそりベルを隠しておいたのだ。
「ゴホン!しかし、ここでお前に会ったのも何かの縁。ちょっと俺の部屋まで一緒に着いてきてくれ」
「え?」
今から休もうと思っていたのに、何故!あんたに時間を奪われなくちゃならないのよ!
私は露骨に嫌そうな顔をした。
「迷惑…だろうか?」
珍しく弱気な態度で尋ねてくる。
「ええ。はっきり言って迷惑です。一応労働時間は決まっています。今は時間外勤務になっておりますが?」
「うぐっ!あ、相変わらずお前ははっきり物を言うな…じ、実は明後日の見合いの件で・・相談したいことがあるのだが…」
デニムは何故か視線をそらせながら言う。
え?何ですって?見合いの相談?!
これは…眼の前にいる阿呆デニムから見合い相手の情報を引き出すチャンスかもしれない。
「ええ、お見合いの相談なら…喜んで乗りますよ」
笑みを浮かべながら言う。
「な、何?!本当か?!」
デニムが嬉しそうな笑顔を見せた。
「はい、勿論です」
私も笑う。実は明後日の見合い相手の情報が全く無くて困っていたのだ。
「よ、よし。では俺の部屋へ向かおう」
「はい、デニム様」
そしていそいそと自室へ向かうデニムの後を私もついていった。
さて、次の見合い相手はどんな女性なのだろう―?
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