第20話 4人目のお見合い相手参上

「皆!首尾は上場よ!」


元気よく厨房に戻って来た私はご機嫌で椅子に座ると言った。


「で?どうでしたか?デニム様にケーキの事、何か疑われませんでしたか?」


シェフが尋ねてきた。


「ええ、そうね。中々アルコールがきついなと言っていたけどお見合い相手の令嬢はとても美味しいと言って食べていたから問題は無いはずよ。ところで今何時頃かしら?」


「まもなく午後3時になりますけど?」


シェフのすぐ隣に立っていた若手の料理人が言う。


「どうりでお腹が空いたと思ったわ。それにあの2人が美味しそうにケーキを食べているのを見ていたから少しお腹が空いてしまったし」


「あ、それなら何か簡単に作りましょうか?」


シェフが言う。


「うん、是非お願い」


「では少々お待ちくださいね」


そしてシェフは厨房に立つと鮮やかな手付きで料理を作り始めた。卵を割り入れ、砂糖を加え、バターを加えると手早くかき混ぜ、小麦粉を振り入れてサッサと混ぜると生地をフライパンに流し入れて焼き始めた。

それら一連の行動を私は感心しながら見つめていた。


そして…


「奥様、出来ました。どうぞこちらへいらして下さい」


厨房に置かれたテーブルセットに招かれて着席すると目の前には熱々出来立てのパンケーキが置かれていた。パンケーキにはブルーベリーソースに生クリームがかかっている。


「まぁ、とても美味しそうね」


「はい、奥様の為に腕によりをかけて作らせて頂きました。どうぞ召し上がって下さい」


「ええ、ありがと」




パンケーキは絶品だった。甘さも丁度良く、ふわふわの生地は文句なしの出来栄えだった。


「ふ〜…美味しかった。ごちそうさまでした」


ナフキンで口元を拭いていると、そこへクララが厨房へ飛び込んできた。


「奥様!大変ですっ!もう次のお見合い相手のジェニー・ワイルド様が侍女の方といらっしゃいました!既にエントランスでお待ちになっております!」


慌てて早口でまくしたてる。


「え?本当に?もう現れたのね?やったわ!」


クララの慌て振りに反して、私は小躍りしたくなってしまった。


「すぐにお出迎えに行かなくちゃ!」


ガタンと椅子から立ち上がると私はシェフに言った。


「パンケーキありがとう。すっごく美味しかったわ」


「い、いえ!めっそうもございません!」


シェフは帽子を取ると頭を下げてきた。


「それじゃ、またお茶を受け取りに来るわね」


それだけ言い残すと、私はクララと一緒にエントランスへと向かった―。



****


「ようこそお越しくださいました。ジェニー様」


私はニコニコ笑みを浮かべながらジェニー嬢に挨拶をした。私の背後には合計10名のメイドとフットマンが一緒に出迎えている。


「少し時間より早く着いてしまったの。悪かったかしら?」


ふわふわの髪を背中までなびかせたジェニー嬢はまるでお人形のように愛らしい顔立ちをしていた。お付きの侍女も中々の美少女である。


「それではどうぞこちらへいらして下さい」


私は先頭に立つと、ジェニー嬢と侍女の2人を連れて西の塔にある『月の部屋』へ案内することにした。


今の時刻は午後3時半。まずはこの2人を部屋に置いたら、デニムたちの様子を見に行って見よう。


私は心の中で自分の計画が成功する事を祈りながら『月の部屋』を目指した―。


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