第59話 言いなりになるデニム

「分かりました。デニム様がそこまでおっしゃるのであれば、ご相伴に預かりますが…但し、条件があります!」


「じょ、条件…?一体それは何だ?」


阿呆デニムが尋ねてきた。


「はい、それは…」


ビシッ!


私はワインが用意されている、超高級アンティーク家具を指差すと言った。


「まず、あの花瓶を片付けて下さい!あテーブルの上に花瓶なんてとんでもないです。万一花瓶が倒れて水がこぼれようものなら大変ですよっ?!」


てっきり拒否されるかと思ったのにデニムはすぐに返事をした。


「ああ、分かった!メイがそういうならすぐに片付けよう!」


そしてデニムはすぐにテーブルへ向かい、花瓶を持ち上げた。


「何処に置けばいい?メイ!」


重たい花瓶を持ったまま、プルプル震えながら私に尋ねてくる。


「そんな事位、ご自分で考えて下さい!でもそのテーブルから最低1mは離して置いてくださいよ?!」


「ああ、分かった。1m離すのだな?」


デニムは足元をふらつかせながらも、花瓶を持ってアンティークテーブルから2m程離れた部屋の隅に移動させた。


「どうだ?これでいいか?」


デニムが尋ねる。


「いいえ、まだです」


「え?!条件は1つではないのか?」


愚か者デニムは私の用件が1つだけだと思ったらしい。そんな話があるものか。


「ワインと料理でテーブルが汚れたらどうするのです?テーブルクロスをかけてください」


「そんなものどこにあるんだよ!」


「場所がわからないならダイニングルームのテーブルクロスを引き剥がして来て下さい」


今度こそ嫌がるだろうと思ったのに、デニムはあっさり返事をする。


「よし!分かった!では取りに行ってくる」


え?本当に取りに行くの?


「では5分で、戻ってこれますか?」


「ああ、5分以内に必ず戻ってくるからな?!」


そしてデニムは脱兎のごとく部屋を飛び出し、バタバタと廊下を走り…足音は遠ざかっていった。

その間に私はワインが注がれたグラスを慎重に、デニムの私的なテーブルの上に置き、ソファに座って部屋の時計を見ながら奴の戻ってくるのを待っていた。

するとバタバタとこちらへ向かって駆けてくる騒がしい足音が廊下から響き渡ってきた。


バアアアアンッ!!


勢いよく部屋の扉が開かれ振り向くと、そこにはゼーゼーと荒い息を吐きながら小脇にテーブルクロスを抱えたデニムが立っていた。


「おお〜デニム様、きっちり5分で戻ってこれましたね?」


パチパチと拍手を送る。


「あ、ああ…ハアハア…お、お前に言われたからな…ハアハア…」


肩で荒い息を吐きながらデニムが答えた。


「では、そのテーブルクロスをあのアンティークテーブルにかけて下さい」


「ええ?!お、俺がやるのかっ?!」


「はい、私はもう業務時間外なので」


「お、おう…そうか、業務時間外か…なるほど」


馬鹿デニムは納得したのか、慣れない手付きでテーブルクロスをかける。


「いいですか、テーブルクロスはシワが出来ないように掛けて下さい。あーほらほら、左右の長さをきちんと揃えないと駄目ですよ?」


「あ、ああ。分かった」


デニムは文句1つ言わずにテーブルクロスを掛けている。しかし…謎だ。何故デニムはここまでこのメイドの『メイ』の言う事は何でも聞くのだろう?


「どうだ!これでいいか?」


デニムはテーブルクロスを掛けると振り向いた。


「ええ、まあ良しとしましょう」


「そうかっ?!それではすぐにワインを飲もう!それでワインはどこだ?」


「デニム様の私的で使用しているテーブルの上に移動しておきました」


「ああ、あれか。よし、では持ってこよう」


デニムはいそいそとワインと料理をテーブルに乗せると席について、嬉しそうに私を手招きした。


「メイ、こっちへ来い」


「はい…」


私は返事をすると嫌々席に着いた―。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る