第60話 美味しいワインと不味い料理

「メイ、まずは前祝いの乾杯をしよう、おっとその前に雰囲気作りが先だな」


は?雰囲気作り?デニムのくせに何を言うのだろう?するとデニムはニコニコしながら、いつの間に用意していたのかテーブルの上に置かれた3本の蝋燭が立てられた銀の燭台にマッチで火を着けようとし…。


「キャアアアッ!やめてえぇぇぇっ!!」


私は絶叫するとデニムの腕を捕まえた。


「うわっ!な、何をするっ!!」


デニムは驚いたように私を見た。


「それはこちらの台詞です!何を血迷ったのですかっ!もし火の着いた燭台が倒れてこのアンティークテーブルが燃えてしまったらどうするつもりですかっ?!早く燭台をどかして下さいっ!」


「わ、分かった!分かったからくっつくな!燭台をどかせないじゃないか!」


何故か耳まで顔を真っ赤にして悶えるデニム。


「はい、離れましたからちゃっちゃと片付けて下さい」


パッとデニムから離れて両手のひらを肩まであげると言った。


「あ、ああ…」


デニムは燭台をどかして書斎机に置くと再びテーブルの前に戻ってきた。


「コホン…では改めて…メイ。向かい側に座ってくれ」


「はい…」


今度こそ私も着席すると、デニムがワイングラスを手にとった。


「メイ、お前もワイングラスを持て」


「はぁ」


渋々ワングラスを手に取る。これがヴィンテージもののワインじゃ無ければさっさと部屋に帰って休んでいるのに…。


「では、我々の輝かしい未来を祝って…乾杯!」


そしてデニムはグイッとワインを飲み干した。


「乾杯」


私も阿呆デニムにならってワインを飲む。しかしそれにしても…輝かしい未来?少なくとも私にとってはそうかもしれないが、デニムに取っては絶望の未来になるのに?


「それで、メイ。話はうまくついたのだろうな?」


「ええ、勿論です」


明日のお見合いは予定通り行えるとね!


「そ、そうか…メイ。お、お前にはいつも感謝している…」


何故か頬を赤らめて私から視線をそらすデニム。


「いえ、どう致しまして。お役に立てて光栄です」


私は心にも無いことを言い、グラスの中のワインを飲み干した。私のグラスが空いた事に気付いたのか、デニムが声を掛けてきた。


「メイ、もっと飲むか?」


「そうですね、いただけるのであれば」


正直言うと、こんな男とはワインなど飲みたくも無いが、やはりヴィンテージもののワインの魅力には贖えなかった。


「メイ、一皿しか用意できなかったが料理も食べないか?」


デニムは私の前に皿を差し出してきた。


「…」


皿の上にはすっかり冷めてしまったチーズのかかったフライドポテトが乗っていた。

…最悪の組み合わせだ。油で揚げたポテトなんて冷めれば固くなって油っぽくなるし、チーズだって冷めたら固くなってしまう。


「…料理としては最悪の組み合わせですね…」


ボソリと本音を呟く。大体フライドポテトにとろ〜りチーズ…お子様舌のデニムの好きなメニューだ。しかし、はっきり言って私にとっては、ワインと共に食したい料理では断じて無い!


「駄目だったか?この料理…」


デニムは首を傾げる。きっと阿呆デニムは冷めた料理等口にしたことがないのだろう。


「私は結構です。どうぞデニム様だけ食べて下さい」


皿をデニムの前に押しやると、私は勝手にワインをグラスに注いでグイッと飲んだ。


「仕方ない、お前の為に用意したのだがな…」


言いながらデニムはすっかり冷めたフライドポテトを口にし…顔をしかめて皿を端の様に追いやった。

やっぱり口に合わなかったのだな?


「ま、まあいい。今夜はワインだけ楽しもう」


デニムはワイングラスにワインを注ぐと私に言った。


「そ、それでメイ…本題に入るが…どうだ?俺の専属にならないか?」


「は?」


デニムは突拍子もない話を切り出してきた―。


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