里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

第54話 準備は万端

　部屋に戻り、入浴を終えてソファに座って見合い相手の身上書に目を通したときには午前0時を過ぎていた。寝酒用のワインを飲みながらブレンダ嬢の写真を眺めてみる。

「あ〜…なるほど、これじゃあデニムが嫌がるのも少しは理解できるわ…」

写真の中に映る女性は色白に金の巻毛が美しい女性だった。青い瞳が印象的なのだが…

「惜しい！実に惜しいわ！」

思わず口に出すと、ベッドメイキングをしてくれていたメイドのクララが尋ねてきた。

「何が惜しいのですか？」

「ええ、明後日行われる阿呆デニムの見合い相手よ！多分後30kg程ダイエットすれば絶対に物凄い美少女になれているはずなのよ！」

私はクララに写真を見せた。

「まあ…この方がデニム様のお見合い相手ですか？顔から首までが一体化されてしまったのですね？目も顔に付きすぎたお肉のせいでまぶたが重く垂れ下がっておりますし、鼻にも余分なお肉が乗っているようですし…恐らく横顔は鼻とほっぺたの高さが一緒かもしれませんね」

クララは写真をじっくり見ながら、中々辛辣な事を言う。

「でもクララ。きっと彼女は痩せればものすごく美人になると思わない？」

「ええ…確かに言われてみればそうも見えますね。それで奥様、明日の計画はもう立てられたのですか？」

クララの質問に私は笑みを浮かべながら言う。

「ええ、勿論よ。明日は忙しくなるわよ〜。そこでクララにお願いしたいことがあるのだけど…」

「はい、どんな事でしょう？」

「実はね…」

私は明日の計画の概要をクララに伝えた―。

＊＊＊＊

翌朝８時―

慌ただしかった厨房が少し落ち着いた頃に私は厨房へとやってきた。

「おはよう、私の頼もしい仲間たち」

腰に腕を当てて、皆に挨拶する。

『おはようございます、奥様！』

厨房に集められらた信頼すべき忠臣たちが返事をする。

「クララから話を聞かされていたと思うけれども、マリア嬢とお見合いした後の修羅場の詳細をまとめたメモを預からせて頂戴」

するとすぐに当時の様子を詳細に示したメモを使用人たちが持ってきてくれた。

「ありがとう、このメモは大切に使わせて貰うわ」

そしてフレディを見た。

「フレディ、現場で捕らえた写真の現像は済んでるのよね？」

「ええ、勿論でございます。奥様」

フレディは懐から封筒を取り出し、中に入っている写真を抜き取るテーブルの上に並べた。

「おお〜！すごい！上手に撮れているじゃないの！」

フレディを褒めると、彼は嬉しそうに頬を染める。

「いえ…お褒めに預かり光栄です」

すると周りにいた使用人たちテーブル並べられた写真を見るためにワラワラと集まってきた。

「おおっ！これはすごい！」

「臨場感が伝わってくるわ…」

「テーブルに並べられたカードに現金！証拠がバッチリ写ってるぞ！」

「ハハハ…！しっかし情けない顔して写ってるな〜…」

「でかしたわね、フレディ。これだけはっきり写っていればもうデニムは言い逃れ出来ないわ」

「ええ、私もそう思います」

「それじゃ…この最高傑作写真預からせて貰うわね」

私は写真を封筒にしまいながらフレディを見た。

「はい、奥様」

＊＊＊＊

１時間後―

私は馬車の前に立っていた。向かい側には見送りについてきたクララが立っている。

「奥様、本当にお一人で大丈夫でしょうか？」

「ええ、大丈夫よ。それじゃ行ってくるわね。」

そして御者にメモを渡すと言った。

「それでは『シャックル』のこの住所の屋敷へ向かってくれる？」

「かしこまりました。奥様」

若手の御者は頭を下げて、馬車の扉を開けてくれたので早速馬車に乗り込見、窓から顔を出した。

「じゃあ、クララ！行ってくるわね」

「はい！お気をつけて！」

「では出発します！」

御者の言葉と同時に馬車はガラガラ音を立ててマーチン家へ向けて走り出した。

「フフフ…ようやく真実を明かす時がやってきたのね…」

馬車の中で今後の展開を思い、私は笑いが止まらなかった―。