第28話 クラウス御一家のお帰り
バンッ!!
ジェニー嬢の見送りを済ませた私は仲間たちが集まっている厨房へとやってきた。
『奥様!』
厨房にいた全員が私を見て声をあげた。私は皆を見渡すと言った。
「皆、聞いて頂戴。ジェニー嬢が家に帰ったらご両親に今日の出来事を報告すると言ってたわ。ダブル見合いの事も、カード賭博の事も、そしてそれらを隠蔽しようとしていたクラウス伯爵の事もね」
「まあ!それは素晴らしいですね」
クララが手を叩く。他の皆は互いに手を取り合って喜んでいる。その時、厨房の扉が勢いよく開かれ、フレディが飛び込んできた。
「まあ、誰かと思ったらフレディじゃない。どうしたのかしら?」
フレディは荒い息を吐きながら言う。彼はデニム達を見張っていたのである。
「は、はい。クラウス伯爵家の方々がこれからお帰りになります!」
「まあ?!そうなのね?それでは見送りをする為にエントランスへ行くわよ!」
『はい!』
厨房にいる料理人達だけを厨房に残すと私達は一目散にエントランスへと向かった。
****
コツコツコツ…
足音を響かせて手下?のフットマンに連れられてやってきたクラウス家御一行。見送りの為にエントランスに集合していた私達を見て、クラウス伯爵は目を細めた。
「ほう…こんなに大勢で我らを見送りにきてくれたのかな?」
「はい、左様でございます。クラウス様」
メイド長?の私が代表で挨拶する。それにしても…。
「デニム様達のお見送りは無いのですね?」
わざと尋ねてみた。
「ああ、こう言っては何だが…お前たちが使えているコネリー家はどうも失礼な輩のようだ。娘の結婚相手にはとてもでは無いがふさわしい相手とは思えん。悪いことは言わん。お前達も早めに別の屋敷に仕えた方が良いと思うぞ?」
クラウス伯爵は忌々しげに言う。その様子から話し合いがろくなもので無かったのは見当がついた。
「ご心配頂きましてありがとうございます。もうクラウス伯爵様の馬車はご用意させて頂いております」
私の言葉にクラウス伯爵は目を細めた。
「ほう、中々気が利くな」
「ありがとうございます」
それは当然だ。だって私達はクラウス伯爵家の動きをずっと監視していたのだから。
それにしても後ろに控えているマリア嬢もエリザベート様も先程から一言も口をきかない。一体どんな話がコネリー家と交わされたのか…気になる!
「よし、2人共屋敷に帰るぞ」
クラウス伯爵は後ろを振り返るとマリア嬢とエリザベート様に声を掛ける。
「ええ、そうね。こんな不愉快な屋敷、さっさと帰りましょう!」
「はい…」
エリザベート様はこちらがギョッとするセリフを吐いた。
ギイィィ…
フットマン達によってドアが開けられると、目の前には既に馬車が待機していた。
クラウス伯爵たちが馬車に乗り込むのを見届ける私達。
私は馬車のドアを閉めると言った。
「またのお越しをお待ちしております」
するとクラウス伯爵は眉をしかめると言った。
「いや、もうこの屋敷に来ることは無いな。すぐに馬車を出してくれ」
すると御者はうなずき、手綱を手に取ると馬車を走らせた。
ガラガラガラガラ…
すっかり夜になったしまった空の下、馬車はあっという間に見えなくなった。
「奥様…」
私の後ろに控えていたクララが声を掛けてきた。
「あ〜それよりお腹が空いたわ。今何時かしら?」
すると同じく見送りに出ていたフットマンが腕時計を見ながら答える。
「只今の時刻は18時半でございます」
「え?!もうそんな時間?早く中へ入りましょう!今夜は皆と一緒に食事をする事にしたわ!」
私は後ろを振り返り、笑顔で使用人達に声を掛けた。
さて、今夜9時には義父の執務室に呼ばれている。
一体どんな話が聞けるのか?
今から楽しみで仕方がない―。
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