第4話 私の作戦
翌朝、日も明けぬ夜明け前―
「フェリシアよ…本当にこんなボロ馬車でコネリー家へ向かうのかい?」
父は屋敷の前に現れた馬車を見て、愕然とした表情で私を見た。そしてボロ馬車と呼ばれた馬車に乗る御者はバツが悪そうにしている。
「お姉ちゃん!どうしてこんなしようもない馬車を用意したのよ?内装も酷くて座りり心地が悪そうだし、外装だってところどころ剥げているじゃないの。こんな馬車であの敵地に戻るつもりなの?ここは我が家の財力を見せつける為にも二頭立ての金ぴか馬車にするべきよ?」
妹のマリーは生まれたばかりのを息子を母に任せ、産後間もない身体を気遣って車いすで屋敷の外まで迎えに出てくれていたが、用意された馬車を見て憤慨している。
「フェリシア、貴女に言われた通りこの馬車を用意したけど、こんな乗り心地の悪い馬車でコネリー家へ向かうのは無理があるわ」
母も心配そうだ。だけどこれは私の秘策の一つ。
「お父さん、お母さん、そしてマリー。私は堂々とコネリー家に帰るわけじゃないからこれくらいの馬車がちょうどいいのよ。だいたい普通に帰ったら追い帰されるだけじゃなく、離婚届を郵送するように言ってくるに決まってるじゃない」
「それはそうだけど‥」
マリーはそれでも目の前の馬車を見て不満そうに見ている。
気の毒なのはボロ馬車に乗る御者の男性だ。
「すみませんすみませんすみません…」
彼は小声で謝罪を続け、小刻みに震えて縮まっている。
「まあまあ、皆取り合えず落ち着いて。実はもう1台馬車を用意してあるのよ。あ、そろそろ来る頃ね?」
すると、遠くからガラガラと馬車が近づいてくる音が聞こえ始め、立派な一等車の馬車がこちらへ向かって走ってきた。そして私たちの目の前で止まった。
「お待たせ致しました。」
ハンサムな御者の男性が恭しく挨拶をする。やはり一等車の御者は顔も一等級だ。
「コネリー家に到着する少し前まではこっちの馬車で向かうつもりなの。それで直前にこっちの馬車に乗り換えてコネリー家へ向かう事にするのよ」
「え?フェリシア。一体どういうことなのかしら?」
母は首を傾げる。そこで私は説明した。
「私はね、内緒でコネリー家へ乗り込むつもりなのよ。私だとばれないように変装して、それで馬車もわざとボロ馬車にしたの。あ、ごめんなさい。ボロ馬車なんて言ってしまって」
私は此方をじっと見つめているボロ馬車…もとい、みすぼらしい?馬車に乗る御者の男性に謝罪した。
「なるほど、だからわざとボロ馬車を借りさせたのね?我が家の馬車を使わないのもその為だったの…」
母が納得したようにうなずく。
「どうりでお姉ちゃんの来ている洋服が随分みすぼらしいと思ったわ。それでどんな方法でコネリー家に乗り込むの?」
「それはね…」
私は3人を呼び寄せて耳元で説明した―。
****
「皆、それでは行って来ます」
一等車の馬車に乗り込むと私は窓から顔を出した。
「頼んだよ、フェリシア。何としても爵位を奪われないように頑張っておくれ」
父が窓から伸ばした私の手を握りしめると言った。
「ええ、任せて下さい。」
「お姉ちゃん。ファイトよ!」
マリーが激励してくれる。
「お母さん。手紙は必要になるまで保管しておいてね?」
私は母に頼んだ。
「ええ、分ったわ。フェリシア」
母は頷いてくれた。
「御者さん。では出発して下さい」
私は御者に頼んだ。
「はい、かしこまりました。行きます!」
御者の掛け声と共に、馬車は走り出した。そしてその後ろをボロ馬車が付いていく。
「みんなー行ってきまーすっ!!」
馬車の窓から身を乗り出し、私はハンカチを振って皆に挨拶をする。父も母もマリーも皆が手を振って見送ってくれる。
やがて屋敷が見えなくなると私は椅子に座り、デニムからの手紙を再度読み直した。
待ってなさい、愚かなデニム。そしてお義父様、お義母様。
私は馬車の中で闘志をみなぎらせるのだった―。
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