第32話 姫はじめ

 ん?

 眠りから目覚めるこの瞬間の……違和感。


「ちーちゃん? おは、あっ、あけましておめでとう」

「うん、ひーちゃん、おめでとう」


 今日は元旦だった。

 昨夜は歌番組を眺めながら、いつの間にか眠ってしまった。

 結局、どっちが勝ったのだろう。まぁ、いいか。


「ちーちゃん、なに、やってんの?」

「ん、なにって?」

 とぼけているのか、寝ぼけているのか。

 さっきから――いや、目覚めた時からこの状態だから私が眠っている間もか――私の胸をさわさわと擦る手がある。

 ふわふわと刺激は弱いので、このまま二度寝に落ちそうなほど心地よいのだが。

「いや、なんでもない」

 このままでもいいか。


「んあっ」

 しばらくそうしていたら、突然の刺激。

 ちーちゃんの指が乳首をかすったのだ、いや、確信犯か?

「どうしたの?」

「そこはダメ」

 その刺激は二度寝の邪魔だ。

「そこって?」

 わかってるくせに。

「ねぇ、そこってどこ?」

 言いたくないから、無視を決めこむ。

 ちーちゃんは、相変わらずやわやわと胸を揉みながらも、たまにカリっと刺激してくる。


 こうなってしまったら、もう駄目だ。

 二度寝のフリを続けながらも、私の意識も胸の頂点に集中してしまう。

 

「うっ」

「くぅ」

 私のうめき声に、ちーちゃんは平然と「どうした?」なんて聞いてくる。

 知ってるくせに。


「ねぇ、やめて」

「え、何もしてないよ?」

「そんなことしたら」

「したら?」

「…………」

「ねぇ、したら、どうなるの?」


 我慢の限界である。

 口で答えずに行動に移す。


 息が続く限りの激しい口づけをする。

 あ、これ、今年初めてのキスだなぁと頭の片隅で考える。


「はぁはぁ」

 口を離し、まだ息の荒いちーちゃんを見つめる。

「こうなる」


「ちーちゃん」

「はい」

「して!」

 私のおねだりに、ちーちゃんがニッコリ笑う。

「喜んで」


「あ、待って。今日は遅番だから軽めに……」

「わかってる」







「どうしました? 腰、痛めちゃいました?」

 その後の仕事中に、同僚に気遣われたことは内緒だ。


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