第27話 新年度

【ひーちゃんside】


 ふぁぁ、疲れた。ちょっとだけ横になろう。

 新年度の、しょっぱなは夜勤でなかなかハードだった。暇な時でも仮眠なんて出来ないので、終わった時は眠い。ひたすら眠い。

 一人暮らしの部屋へ戻ると気が抜けて、ちょっとのつもりが……


「ひーちゃん、大丈夫?」

 はっ⁉︎

「着替えもせずに寝ちゃったの?」

 やばっ、ちーちゃんが来たという事は……

「何時?」

「5時」

「寝ちゃってた」

「そうみたいだね、どうする?」

「お風呂入りたい」

「そう思って、さっきスイッチ押しておいた。もう溜まると思うよ」

「ちーちゃん、凄い」

 そう言うと、得意げな顔でニコッと笑った。


 お風呂から上がるとキッチンから良い匂いがしていて驚く。

「ちーちゃん?」

「特訓の成果を見せてあげる、もうちょいかかるから待ってて」

 ちーちゃんが料理をしてくれるなんて、感動だ。

「ちーちゃん美味しい、凄いねぇ」

 へへっと照れながら笑う彼女を見ながら食事をする幸せ。


「片付けくらいやるよ」

「いいよいいよ、ひーちゃんは休んでて」

「そんなに甘やかしたら、何もやらない人になっちゃうかもよ」

 これから二人で暮らす予定なのだから、家事分担とか決めなきゃなぁとぼんやり考えていた。

「それでもいいよ」

「え?」

「私がいないと何も出来ない人になっちゃってよ」

 なんてねとクスクス笑うけれど、一瞬真顔だったのを見逃さなかった。


 洗い物をするちーちゃんの背中にくっつく。

「すぐ終わるから待ってて」

「やだ、このままがいい」

「いいけど、どうした?」

「ずっと一緒にいるから」

 ちーちゃんの一瞬手が止まった。

「うん、そうだね。ずっと一緒にいようね」




【ちーちゃんside】


 新年度、といってもウチの事業所には新入社員がいるわけではない。逆に二人が退職してしまったため、忙しくなっている。

「おつかれさま」

 今日の夜勤明けは、ひーちゃんで。

 疲れが顔にありありと出ている。

 早く帰って休んで欲しい。


 私は早出で、仕事が終わったら速攻でひーちゃんの部屋へ行ってみた。

 やっぱり……

 いつもよりも散らかっているし、ベッドの中のひーちゃんは着替えすらしてない。

 恋人のこんな姿を見て私は、幻滅するどころかちょっと嬉しく思っている。


 声をかけたらすぐに起きたので、少しは寝たことで疲労も落ち着いたのかな。

 お風呂に入ってもらって、食事の準備もして食べてもらった。こうやってお世話をするのも、嬉しいんだよ。


 ひーちゃんからは、そんなに甘やかされたらダメになるって言われたけれど。

 私はそうなって欲しいとすら思っている。

 私がいなきゃダメになったら、私から離れていかないでしょ?

 もっとだらしなくなってもいいのに。


 もうすぐ一緒に暮らす予定なのに、そんなふうに思うのは、不安もあるのだろうか。

 結婚前のマリッジブルーってやつ?


「ずっと一緒にいるから」

 ひーちゃんは、そんなふうに言う。

 私の思いや不安を、分かってくれる。


 この人なら絶対に大丈夫、そう思えた日。



【おまけ】


「ひーちゃん、今日はとことん甘やかしたいの、いい?」

「へ?」

「どうして欲しい?」

「気持ちよく……して欲しい」

「わかった、じゃあ気持ちよかったら気持ちいいって言うんだよ」

「うん」



「ちーちゃん、も、無理……ギブ」


 やり過ぎてしまった日。

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