第29話 ある休日

 意識が浮上して、無意識に手を伸ばす。そこにあるであろうモノに触れる。

 無理やり目を開けてスマホを覗いて驚いた。

 もう、こんな時間か。





「おはよ、ひーちゃん」

「おは、はぁぁ」

 挨拶の途中で欠伸が出るなんて、余程眠たいんだろう。

「まだ寝てればいいのに」

「いやぁ、こんな時間まで寝ちゃって、ごめん」

「確かに、ひーちゃんにしては遅いか。でも、お休みなんだからいいのに」

「だって、せっかくのーー」

 言いたいことがなんとなく分かって、愛おしくなってキスをした。

 昨夜もひーちゃんは残業だった。いろんな資格を持っている彼女は、通常業務以外も頼まれてしまう。そして断れないのだ。

「明日どうする?」

 という私の言葉に。

「ちーちゃんも休みだったね、デートしようか」

 昨夜のひーちゃんの言葉、その気持ちだけで充分幸せだから。


「デートしなくても大丈夫だから」

 唇を離して、そう告げる。

「なら、二度寝してもいい?」

「うん」

 もう一度唇を軽く合わせて離れ……ようとしたが、あれ、動けない。

 腰に回された、ひーちゃんの腕の力のせいだ。

「一緒に、二度寝をお願いします」

 そう言ったひーちゃんの目力も、強い。

「あ、うん、でも……寝れないかも」

 正確には、寝かせられないかも?

 ひーちゃんはその言葉の意味がわかったようで、ふにゃりと笑って、いいよと言った。




 意識が浮上して、無意識に手を伸ばす。そこにあるであろうモノに触れる。

 思わず口角が上がる。

「ふふ、寝ながら笑ってる」

 聞き慣れた愛しい彼女の声。

「何時?」

 目を閉じたまま聞く。

 もう、そんな時間か。

 

 貴重な休日が過ぎ去ろうとしているけれど、幸せな瞬間が今訪れる。


 目を開ければそこにある、眩しい笑顔。

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