第13話 おやつ

 彼女が隣で泣いている。

 私も同じ気持ちだ。

 そっと手に触れる。嫌がることなく繋いでくれた。良かった。


 悲しいけれど、私は涙は出ていない。すでに原作を読んでいて大体のストーリーを把握しているから、心の準備が出来ているのだ。


 終わったのを確認して抱き寄せた。人肌が恋しくて。

 泣き顔を見せたくないせいか、すっぽりと私の胸に収まってくれた。

 落ち着くまで、触り心地の良い髪を梳いていた。



 二人で毎週楽しみにしていたドラマが、今日で最終回を迎えた。

 とあるホスピスを舞台にしたヒューマンドラマだ。

 私たちの職場でも「看取り」をすることがあるので、いろんな想いを感じながらドラマを見た。彼女もおそらくは、そうなんだろう。


「ねぇ、ひーちゃんの、人生最期に食べたいおやつは何?」

 その問いは、原作を読んだ時に私も考えた。私が最期に食べたいおやつは何だろう。

 これといった物が思い浮かばなかった。子供の頃は、おやつを食べるという習慣もなかった。というか、両親とも働いて家に居なかったし、そんなに裕福でもなかったから。


 だから、自分の子供には。

 学校が終わる頃には家に居たくて、ほんの少しのパートしかしなかったし。おやつもほぼ手作りだった。


「特に思い浮かばないんだけどね、息子が最期に食べたいおやつが、私の作ったおやつだったらいいな。って思う」


「そっかぁ。どんなおやつ作ってたの?」

「いろいろ作ったよ〜よく作ったのは、マドレーヌとかシフォンケーキとか。誕生日にはタルトとかチョコレートケーキも作ったし」

「本格的だ」

 ちーちゃんは少し驚いて、私も食べたいなって呟いた。

 ちーちゃんが食べてくれるなら、また作ってみようか。そういえば、約束したまままだ果たせてなかったっけ。


「ちーちゃん、今度の休みに電気屋さん行こうか」

「ん?」

「オーブンレンジを買わなきゃ」

「あ、そこからだったか? 私の最期に食べたいおやつは、まだまだ先になりそうだなぁ」

 と、目を細めていた。

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