第14話 うち、行ってて

 ちーちゃんと出会って半年。


 ということは。

 この職場に来て半年。夜勤にも慣れてきた。

 そんな職場にまた新しくスタッフが加わった。

「若い子だって〜」

 少し前の噂話通り、24歳の可愛い子だった。


「ちーちゃん、最近楽しそうだね」

「ん? 楽しいよ、ひーちゃんとご飯食べてるんだもん」

「今じゃなくて、職場でさぁ」

「ん? そう?」

「前は仕事の愚痴多かったのに、今は石井さんといつも一緒にいるし、楽しそうだなって」

「一応、指導係だしね」

「石井さん、若いし可愛いし?」

「え、なに? 妬いてんの?」

「違うし」

「やだ、ひーちゃん。可愛い」

「だから、違うって」

 ちーちゃんはニヤけ顔のままさっさと食器を片付けて、近づいてきた。


「なに?」

「ん? 食べるの、見てるだけだよ」

「食べにくっ」

「誰かが言ってたけどさぁ、好きな人が食べてる姿ってずっと見てられるね」

「・・・」

 とっとと食べ終わった方が良さそうだ。恥ずかしすぎて食べた気がしない。無言で食べ進めた。


 食器を洗っていたら、ちーちゃんが隣にやってきた。

「ひーちゃん、私、歳下には興味ないから安心してね」

 と布巾で拭きながら、そっと呟いた。


 とっとと洗い物終わらせて抱きしめよう。無言で洗った。



 数日後の夜勤の日。

 午後10時を過ぎて、ようやく静かになった。一息つける時間帯。

 職員用玄関の方から音が聞こえて、何かと思ったら、ちーちゃんが入ってきた。

「あれ、どうした?」

「これ、持って帰っちゃって」

 と、見せてくれたのはピッチだった。

 主に各居室からのコールを受けるPHS。5台あるから夜勤帯では支障はないけど、家に持って帰ってしまっては困る。

「たまに、やっちゃうね」

 私はないけど、ポケットに入れたまま持って帰ることがあるらしい。

「差し入れも持ってきたよ」

 缶コーヒーを振って見せている。さすが、私が好きなメーカーのだ。

「ありがとう! 気が効くね」


「ん!」

「ん?」

 なぜ、顔を突き出している?

「ありがとうのチューは?」

「ここ、職場だよ」

「いいじゃん、誰もいないし」

「ダメだよ」

「チッ! 忙しかった?」

 舌打ちは聞かなかったことにして。

「まぁまぁかな。遅番が石井さんだったから助かったよ。彼女、経験者だからやる事が早くていいね」

「へぇ、高評価じゃん」

「あ、今度うちに遊びに来たいって」

「は⁉︎」

 

 殺気に帯びたその声に一瞬怯んだ。

 やってしまった、かも。


「あ、えっと。社交辞令だから。うちには、呼ばないから」

 無言に耐えきれず「ち、ちーちゃん? 怒ってる?」と聞けば、「どうしようかな」と不敵に笑う。



「ちーちゃん、今仕事中だからダメだって」

 後ずさるも、どんどん近寄られ。

「黙ってれば分からないって」

「いや、でも」

 なんだかんだ言いながらも、ちーちゃんの口付けを受け入れてしまう。

「んあっ、これ以上は……」

 肩を押し戻すが。

「コールが鳴ったら止めるから」

 そう言って、今度は首筋を攻めてくる。

「ちーちゃん、ほんと、ダメ……」

 これ以上は、止められなくなる。

「モニター見てなきゃいけないし、ね?」

 なんとか納得して、離れてくれてほっとした。


「じゃ、座って見て!」

 パソコンのディスプレイに各部屋のカメラが捉えた画像が映し出されている。

それぞれ、眠っているようだ。


「えっ、なんで?」

 ちーちゃん、机の下に潜って何してるのー? 全然納得してないじゃないかー。

「ひーちゃんは、モニター見てて!」

「うん、じゃなくて。コラ!」

「下着の替えなんて持ってないでしょ?」

「だからって下げるなーあっ! ちょっ、やめっ」



 ピチャピチャという水音が聞こえる。

「うっ…あぅ...」

 声だけは必死に我慢する。

「ひゃっ」

 息継ぎのタイミングで指を挿れてきた。

「私以外の子を部屋に入れちゃダメだよ」

 ぶんぶんと首を縦に振る。

 ちーちゃんは、器用に片方の口角だけ上げて、再び舐め始めた。

「はふっ...もう...やっ」

 ピチャピチャ

「ちーちゃん...ゆる...して」

 チュッ、ジュル

「あっ...いっ......っくぅ」



「ひーちゃん、ごめん。またやり過ぎちゃった。怒ってる?」

 トイレから戻ってくると、ちーちゃんは殊勝に謝ってきた。

「もう巡視の時間だよね、オムツ交換手伝うよ」

「いいよ、私の仕事だから」

 冷たく言い放ってしまった。

 怒っているわけじゃない。ただ、恥ずかしかった。ほんとに嫌だったら止めさせることも出来たのだから。でも、少しは反省させた方がいいから、このままでいいや。


「うっ、帰った方が...いい?」

「うん」

「わかった」

 シュンとなっていたので、ロッカーまで一緒に行く。


「ちーちゃん! これ。うち、行ってて」

 鍵を渡しながら言う。

「帰ったら、めちゃくちゃにするから。覚悟してね」


 ちーちゃんは、大事そうに鍵を握りしめて大きく頷いた。

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