第12話 溺れる
ちーちゃんに手を引かれて、浴室の前まで来た。正確には、途中2度ほど立ち止まったのだけど。
「どうせ入るんだから、素直になればいいのに」と呆れられながら。
凹み気味の私に向かって、両手を広げて「おいで!」と言う。
それをされると条件反射のように、その胸の中に飛び込むのだった。
「ちーちゃんの方が歳上みたいだね」
情けなさを感じずにはいられないけれど。
「いまさら?」と笑ってくれるちーちゃんが愛おしいのだ。
「ひーちゃんが好きだよ」
「私も好き」
「ほんとに嫌だったら、来なくていいからね。先に入ってるね」
そう言うと、さっさと服を脱いで浴室へ入っていった。
嫌なわけじゃない。恥ずかしいわけでもないーーいや、恥ずかしさもあるにはあるけどそればかりじゃないーー
「ふぅ」
一つ、大きくため息を吐いて私は服を脱ぎはじめた。
浴室へ入っていくと、案の定狭く、ちーちゃんが浴びていたシャワーを顔面にもろに受けた。単身者用のアパートの浴室なのだから、2人で入る想定はされていない。
「あ、ごめーん」
謝りながらもニコニコしているちーちゃん。
「私、身体は洗ったから一旦入るね」と湯船に浸かった。さすがに狭いねと、やっぱりクスクス笑っている。
平静を装い、いつも通り洗っていく。
「ひーちゃん、頭から洗うんだ」
「うん、ちーちゃんは違うの?」
「私は身体から。あ、背中流そうか?」
私は少し考えてから「お願いします」と言って背を向けた。見られている恥ずかしさから少しでも逃れたかったから。
「なんで敬語?」と、これまた楽しそうに言いながら洗ってくれた。最後に指でツーーっと背中をなぞられゾクゾクしたけれど。
「ちーちゃん、交代! 頭洗ってあげるよ」
「やった! お願いしまーす」
ちーちゃんだって敬語じゃないか、と言いながら、場所も交代し、職場で培ったシャンプーの技術を披露した。
「ん、気持ちいい」
ちーちゃんも満足してくれたようだ。
「ひーちゃん、入ってもいい?」
シャンプーを終え、ざっと髪を拭いたちーちゃんは、私の返事も待たずに湯船に入ってきた。
「わっ」
「痛っ」
「あ、ごめっ」
なんせ狭い浴槽なので、お湯は盛大に溢れ、足は踏まれ、ほぼ身体は密着状態だ。
「重くない?」
「大丈夫だよ、浮力あるから。でも......逆向きになった方が楽じゃない?」
「やだ。ひーちゃんの顔、見ていたいもん」
「......っ」
「なんで、そんな難しい顔してるの?」
どんな顔してるか自分ではわからないけど、ちーちゃんは何故かニコニコしている。これ、絶対確信犯だ。私の気持ちなんてお見通しなんだろう。
「焦らすから」
「ん、何を?」
こんなに近づいて触れる寸前なのに余裕な表情なのが、ちょっと悔しい。
「・・・」
「ちゃんと言って」
「キスしたい」
「したかったらすればい......んっ」
最後まで言われる前に口を塞いだ。もちろん唇で。最初から舌を抉じ入れた。
無心で舌を絡め合っていたら、攻めていたはずなのに、いつの間にかちーちゃんの舌が私の口内で暴れてた。
夢中になり過ぎて呼吸がうまく出来ないからか、お湯でのぼせたからか、頭がボーっとしてきた。
「ひーちゃん大丈夫? 場所変えよ!」
「うん?」
「立てる?」
「うん」
ちーちゃんは、手を貸してくれながら、器用にシャワーを出していた。ざっと掛け湯をしてくれて......
「えっ?」
壁に押し付けられていた。
両手も押さえられている。
場所変えるって、ベッドじゃないの? とか、シャワー出しっぱなしだよ? とか言いたいことはあったのに、蕩けるような口付けに何も言えなくなる。
ようやく離れたちーちゃんの唇からは。
「まだまだこれからだよ」とか。
「ベッド以外だと燃えない?」とか。
期待させる言葉が発せられて背筋がまたゾクゾクする。
相変わらず手首を押さえられたまま、首すじから鎖骨へと唇が移動する。時々キュッと強く吸われながら。
「手、離して」
「まだ駄目」
ちーちゃんの視線は、私の胸元だ。触れられる前から存在を主張しているが、わざとソレには触らないようにしているみたいで周りにキスを落としていく。
「見て! 温まってるからすぐに付いちゃう」嬉しそうに言うけれど。
「そんなに......」キスマーク付けないでよ、と思うけれど。
「それより、手!」離して欲しい。
「抵抗しない?」
「しないから」
「絶対だよ?」
「うん」
「私の言う通りにしてよ?」
「わかった」
ようやく自由になった両手は、ちーちゃんの肩を抱く。
「うあっっ」
それと同時に、ちーちゃんは乳首に吸い付いた。抵抗......したくても出来ない、気持ちいい、、
私の手が自由になるということは、ちーちゃんの手も自由になったわけで。
胸を腰を下腹部を自由に撫でられる。
思わず発する嬌声はエコーがかかる。
口角を上げたちーちゃんは、シャワーを手にすると。
「足、広げて」と言った。
「ん?」
「言う通りにするんだよね?」
「あぁぁ......」
突然の事と、シャワーの刺激とで何が何だかわからなくなるほどだった。
「ちーちゃん、ダメ、これ」
「気持ちいいでしょ?」
「いいけど......もう...むり」
「あ、やばっ」という、ちーちゃんの声を最後に意識が飛んだ。
目を開けたら、ベッドの上にいた。
「えっ、あれ?」
服は着ていないけれど、身体は濡れておらず、きちんと布団はかけられている。
「ちーちゃん?」
「あ、覚醒した?」
ベッド脇に来てくれたちーちゃんは、ちゃんとパジャマを着ていた。
「大丈夫?」と心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ちーちゃんが運んでくれたの?」
「うん、私の責任だから」
「重かったよね?」
「大丈夫だよ、介護技術の賜物だ」
「ボディメカニクス?」
「そう、それ!」
「パジャマ着てないんだけど?」
「それは、必要ないかなって......どうせ脱がせるし」
「自分は着てるのに?」
「ベッドに潜り込む時は、脱ぐから。待ってて」
そう言って、額にキスをした後キッチンへ消えた。
ちーちゃんが持ってきてくれたお水を飲んで一息ついた。
その間に、ちーちゃんはパジャマを脱いで隣に入ってきた。
「ごめんね、ちょっとやりすぎちゃった」
「ううん、私の方こそ。ダイエットするね」
「え、そこ?」
やっと笑ってくれた。
「でも、ほんと。ひーちゃん嫌がってたのに、ごめん」
「違う! 嫌がってたわけじゃないよ、それはホント。ただ、ちょっと怖かった。溺れそうだったから」
お風呂で触れ合ったらどうなるかなんて、容易に想像出来る。
「は、湯船で?」
「違うよ、ちーちゃんにだよ! もう、言わせないでよー恥ずかしっ」
「ぷはっ、なにそれ」
爆笑しながらも「嬉しい」と耳元で囁かれ、少しだけ照れた。
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