第25話 家族

「こんな感じどう?」

「あ、いいかも。間取りは?」

「えっと、2LDK」

「予算的にもそれくらいだよねぇ」

 その夜は、二人で熱心にパソコンを見つめていた。

 賃貸物件を取り扱うサイトだ。


 一緒に暮らすことをお互いに確認し--その夜は燃えたなぁ--じゃなくて。

 明日は二人ともお休みなので、実際に物件を探しに行く予定で、その前に下調べをしていたのだ。



「はぁ、なんか疲れちゃったね」

「もっと簡単に見つかると思ってたのにね」

 帰宅後、私はソファにドサッと倒れこんだ。

 実際に探してみて分かったこと。

 二人入居可の物件が少ないこと。

 いや、あるにはあるが、夫婦や兄弟などの家族ではない二人--いわゆるルームシェアの場合、嫌がる大家さんが多いのだとか。


 家族のつもりなんだけどなぁ…


「時期も悪いって言ってたね」

 この時期は入学や入社など新生活を始める人が多く、数か月前には探し始める人が多いのだとか。ゆえに今の時期には物件数は少なくなっているのだと。

「そりゃそうだよね、春だもん」

「私たちは、そんなに急いでないから、ゆっくり探そうよ」

「そうだね、それにーー先に挨拶しに行きたいしな」

 私の呟きに、ちーちゃんは首を傾げた。

「挨拶?」

「一緒に暮らすこと、親御さんに言ってないんでしょ?」

「言わなくても良くない? うち出ることはちゃんと言ったんだし。出てからの事は私の勝手ーー」

「そういうわけにはいかないでしょ」

 私は身を起こして、ちーちゃんと対峙する。

「一緒に行くから」

 手を取って、顔を覗き込む。

「ん、わかった」

 渋々という感じだったけれど、頷いていた。




「ルームシェア? 二人で暮らすってこと?」

 ちーちゃんの実家に来ていた。

 お母さんが、初耳だと驚いていた。

「そちらの方と?」

 お父さんは眼鏡の奥で目を細めた。


「うん、そう。いいよね?」

 ちーちゃんは有無を言わさないような言い方をしていた。

 そして「いいんじゃない、お友達と一緒なら安心だわ」とのお母さんの言葉にホッとした表情をみせた。


「あ、違うんです。友達じゃなくてーー」

 言いかけた私に、ちーちゃんは心底驚いた顔を向けた。

 何を言い出すの、と目が訴えていた。

「千鶴さんとは、真剣にお付き合いをしています」

 私がそう言った後、三人とも動きが止まった。もちろん言葉もなかったのでしばらく無音だった。まるで何処かへ行ってしまったかのように。


「えっと、それはーー」

 一番早く現実に戻ってきたのはお母さんだった。

「ーー恋人ってことかしら?」

「はい」

 私の言葉を聞いてから、ちーちゃんの方を向いて。

「そうなの? 恋人と一緒に暮らすっていうの?」

「うっ……そう、です」

 観念したように、ちーちゃんは頷いた。


「だったらダメね」

 お母さんはキッパリと言った。

「竹本さんでしたっけ、申し訳ないんですが--」

「はい、お母さん。ですが私たちは--」

「半年、いえ三ヶ月待っていただける?」

「真剣に......えっ? 待つ?」




「お恥ずかしい話なんですが、この家事が全くダメでね。一人暮らしするならーーそれがルームシェアでもーー少しは出来るようになるかと期待してたんだけど。不味いご飯でも自分で食べる分にはいいかなと、そうしたら自然に料理も出来るようになるでしょ? でも、恋人と暮らすなら話は変わってくるわ。しっかり花嫁修業してからじゃないと出せない。お母さんが責任を持ってなんとか迷惑かけない程度に仕込むから、少し待っていただけるかしら?」

 唖然とした。ちーちゃんも同じだったみたいでポカンとしている。

 反対、されたわけではないんだよね?

「は、はい。待つのは全然大丈夫ですが……料理が出来ないのは知ってますし、私がいつも作ってるので問題はないですよ?」

 というのは口実で、ほんとは時間稼ぎするつもりだったりするのかな? なんて疑心暗鬼になって恐る恐る聞いてみた。

「それじゃダメよ、今まで私が教えてこなかったのが悪いの、ごめんなさいね、こんな娘で。ふつつかものですが、よろしくお願いしますね。ね、お父さん」

 最後は思い出したように、隣のお父さんに同意を求めていた。

「お、おう」と、まだ現実に戻ってきてないんじゃないかと思えるような曖昧な返事だったけれど。

「お父さんお母さんありがとう」

 ちーちゃんが涙声で喜んでいる。あぁ、なんて微笑ましい家族なんだろう。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 私は、深々と頭を下げた。

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