第23話 もったいないことを

「ねぇ、ひーちゃん女子校だったんでしょ?」

「そうだよ」

「バレンタインにチョコどれだけ貰った?」

「え?」

「貰ったこと……あるよね?」

「一個」

「へぇ............」


 え、何この沈黙。

 たったの一個? って思ってる?

 案外モテないね? とか?

 幻滅されちゃった?


「その子とは?」

「友達だよ」

「何ちゃん?」

「くみちゃん」

 あ、これ尋問モード?

「くみちゃんには、手出さなかったの?」

「出さないよ」

「なんで?」

「友達だし」

「可愛かったんでしょ」

「そりゃ、もう......あっ」

「可愛い子、好きだもんね」

 少しご機嫌斜めな気配?

「手を繋いだことは?」

「ん? あぁ、そういえばあったな。何かの授業で視聴覚室で映画を観たのね、たまたま隣の席でさ。怖いシーンがあったから手を握られて、離すタイミングが分からなくなってそのまま......最後まで観た」

「それって」

「ん?」

「何でもない。じゃ、くみちゃんの恋バナ聞いたことある?」

「あぁ、中学の時に付き合ってた男の子がいて卒業で別れたって。プラトニックだったって言ってたなぁ。別れる時に『記念に』ってキスをしようとしてきたけど断ったって......あれ?」

 ちーちゃんは複雑な表情をしていた。


 くみちゃん、もしかして私の事を?

 いやいやいや。

 でも、押したらいけた?

 もったいないことを......


「もったいないことしたって思ってる?」

「うへ?」

「ひーちゃん、わかりやすっ」

 苦笑いのちーちゃんは、鞄から箱を取り出して、テーブルに置いた。


「さて、ひーちゃん。これは私からのチョコです。欲しい?」

「もちろん欲しい」

「条件があります」

「はい」

「高校の同窓会には行かないで」

「え、うん分かった、行かない。今まで行ったことないし」

「そうなの?」

「うん」

「ちょ、ひーちゃん。なんでニヤついてるの?」

「え、だってヤキモチでしょ?」

 可愛いなぁ。


「では、これは私から」

 チョコではなく、ワインを用意した。

「お酒なんて珍しい」

「だって、飲み物じゃないと、口移し出来ないじゃん」

「は?」

「約束したでしょ」

 ふふ、楽しみだ。



 二人とも、お酒はそんなに強くないので、居酒屋にはたまに行くけど家ではほとんど飲まない。

 今夜は特別だ。

 ワインボトルを開けて、グラスに注ぐ。ちーちゃんは......無言だ。

 軽くグラスを合わせて一口含む。

 そのまま顔を近付ければーーあれ? なんで逃げるの?

 ゴクリ。結局飲み込んだ。

「なんで?」と聞いても、無言で首を横に振るばかり。

「嫌なら、普通に飲も?」

「うん」

 ワインが苦手なわけじゃないみたいだ。


「はい、アーン」

 貰ったチョコを、ちーちゃんに差し出せば、口を開けてパクリと食べてくれた。

 一瞬の隙を見て口付ければ、驚きながらも応えてくれて、まだ溶けきれていないチョコを舌で味わうことができた。

「甘〜い」と感想を言えば、頬を赤く染めて微笑んだ。


「ちーちゃんは今までにチョコ何個貰った?」

「私は......そんなのないよ」

「あげる方か。何個あげた?」

「えっと」

「数えきれない?」

「そんな訳ないでしょ。私はそういうの、あんまりないから」

「セフレいたのに?」

「あれは......いろいろ教えて貰ったというか......本気じゃないし」

「ふぅん」


「ひーちゃん、はいっ」

 今度はちーちゃんがチョコを食べさせてくれた。

 ふざけて指まで口に入れて舐めたら睨まれたけど、その後キスしてくれたから怒ってるわけではなさそうだ。

 チョコと舌を存分に味わって、目を開けたら潤んだ目のちーちゃんが言った。

「本気で好きになったのは、ひーちゃんが初めてだから」

「......っ」

 破壊力が半端ない。


 再度、ワインを口に含み顔を近付ける。私の顔は真っ赤になっているだろうけど、致し方ない。

 今度は、背けられることもなく、唇が重なった。ゆっくり液体を押し出し、ちーちゃんの喉が鳴る。

「私も本気で好きだよ、ちーちゃんのこと」


 二人とも真っ赤になったのは、アルコールのせいばかりではない。

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