第3話 ちーちゃん視点
思いがけず恋人が出来た。
恋人といっても仮だ。
お試し期間中ってやつな。
なんであんなこと言ってしまったんだろう。
「私と付き合ってください。もちろんお試しで」なんて。
ちゃんと告白して振られたら、今後の仕事に支障をきたすから予防線を張ったのか。
いや、ただ単に勇気がなかったんだな。
ちょい訳ありで途中入社してきた優しそうな人。
最初から気になってた。
3日目だったか、我慢できずに声をかけた。
「どうですか?慣れましたか?」と。
なんて答えてくれたのか、全く覚えていない。
なぜなら、笑顔に見惚れてたから。
気になっていたから、恋愛話を振られた時すぐにカミングアウトした。
ーー女の子が好きなことをーー
他の人にはしていない。
なんの根拠もないけど、この人なら大丈夫って思ったんだ。
案の定、受け入れてくれた。
優しい人だ。
それだけじゃなく、百合小説書いてるって?
今まで百合漫画や百合小説にどれだけ癒されたことか。
自分だけじゃない、私はおかしくなんかないって思えた。
「読んでみたい」って言う、私のわがままにも快く応じてくれて。
その日の夜に、お宅へお邪魔した。
もう、部屋に入った瞬間から緊張しっぱなしだったんだけど。
私以上に緊張してるみたいにキョドッてたから、ちょっと揶揄ってみたら、反応が可愛すぎる。
実年齢は、私よりもかなり上みたいだけど、全然気にならない。
目的の百合小説を読ませてもらったら、お世辞じゃなく面白い。
テンポがあって読みやすいし。
なにより、登場人物が優しいんだ。
感想を伝えると嬉しそうにいろいろ話し出した。
ーー人が変わったみたいにーー
ニコニコ話す顔が近すぎて、ドキドキした。
やっぱ好きだわ。
「暑い?」とか言ってるし。
天然かー
物静かな人だと思ってたけど、案外面白い人なのかも。
もっといろいろ知りたいと思った。
小説の中では、いろんなすれ違いもあったけれど、最終的にはハッピーエンド。
私もこんな恋がしたい。
少しでも可能性はあるのかな?
百合小説を書くくらいだから、抵抗や拒否感はないよね。
だからといって付き合える保証はないけど。
おもいきって聞いてみたら、「わからない」と言う。
だったら、私と試してみましょうと。
小説のネタになるからと。
半ば強引に付き合うことを承諾させてしまった。
流されるタイプなのかなぁと思ってたら……
いきなり、キスをされた。
嘘でしょ?狡いよ、それ。
そんなことされたら、落ちるわ。
自分からキスしてきたくせに、それ以降何もなしなの?
何度か家に遊びに行ってるんだけどなぁ。
いつも仕事終わってからだから、時間がないのもあるけど。
いまひとつ、何を考えているか分からない。
ま、そんな不思議なところも好きなんだけど。
がっついたら嫌われるかなぁ。
何かキッカケがあればなぁ。
「ゴールデンウィークだねぇ」という話になった。
私たちの仕事には関係ないけど。
しっかり出勤してるし。
なんなら、盆も正月も関係ないけど。
世のイベントに便乗するのも悪くないよね?
「デートしません?」
と誘ったら快諾してくれた。
たまには外でディナーだ!
いつも作ってくれるご飯が美味しすぎて甘えてたけど。
そうだよね、外で食べたらデートっぽいし、何か進展あるかも?
もっと早く誘えば良かった。
普通はお家デートの方が進展ありそうなんだけど、私たちの場合は最初からお家だからかな。
ついつい、まったりしてしまって、色っぽい感じにはならないんだ。
ダイニングバーだったので、お酒も頼んだ。
強くはないので酎ハイだ。
酔わせてどうのこうの、なんて事はしない。
っていうか、そんなに飲めないし。
飲ませたら、連れて帰るのも大変そうだしな。
そんなふうにアレコレ考えたりしてたけど
一緒にご飯食べて喋って笑ってたら楽しくて
もう、それだけで幸せで、あっという間に時間は過ぎていった。
このまま今日も何もなく帰るんだろうなって思ってたら……
ハプニングが起きたのだった。
突然の土砂降りだった。
おまけに、私の嫌いな雷も鳴り出した。
ひーちゃんの部屋が近かったので、二人で走った。
びしょ濡れだったので、先にシャワーを使わせてもらった。
どさくさに紛れて『2人で』って誘ったけど、さすがに無理だった。
そりゃそうか。
貸してもらった服を着てリビングへ行くと、凄い大きな音がしたので、思わず抱きついた。
近くに雷が落ちたようだ。
これは、わざとじゃなくて、本気でビビったのだ。
優しく抱きしめてくれてたから、しばらくそうしていた。
「どうしてそんなに優しいの?」と聞いたら
「ちーちゃんは、大事な」と言いかけた。
大事な、何?
「恋人」と言ってくれたけど、その、少しの間が気になる。
お試し期間中の恋人?
本物になるには、どうしたらいい?
ひーちゃんも体が冷えていたので、お風呂へ入ってもらった。
待ってる間はテレビをボーっと見たり、スマホをいじったり。
シャワーの音とか洗濯機が回る音とか聞いていたら、
今日は帰りたくないなぁ
と思った。
私は実家暮らしということもあり、今まで泊まったことはないけれど。
ひーちゃんは、どう思ってるのかな?
お風呂上がりのひーちゃんは良い匂いがして、思わず擦り寄ってしまった。
乾燥機がないからコインランドリーに・・とか言うから
「土砂降りですよ?」
と突っ込んだ。
どうしても帰って欲しいの?
「泊めてくれないの?」
もう自棄だ!
「お布団一組しかない」
とか言うから
「一緒に寝ましょ」
「ダメですか?」
押しまくって、ようやく
「ダメじゃない」
と、オッケーを貰った。
シングルベッドは狭いけど、その分くっつくことが出来る。
とはいえ、最初は遠慮して端っこに寝転んでいた。
「落ちないでよ?」と心配されるほどに。
そう言うひーちゃんも、隅にいるから掛け布団が半分くらいしかかかっていないじゃん。
掛けてあげるフリをしながらキスをした。
一瞬だった。
一瞬触れただけなのに、もう止められなくなった。
ひーちゃんも応えてくれるように深いキスを繰り返す。
こんな蕩けそうなキス、久しぶりすぎて頭が真っ白になる。
勢いでパジャマのボタンに手を伸ばしたら
「ちょっと待って」と制された。
「ごめんなさい。嫌ですか?」
嫌がられたら止めるつもりだった。
帰ってきた返事は「恥ずかしい」だった。
嫌では、ない?
「電気消します?」
「うん」
恥ずかしいだなんて、可愛すぎる。
あれ、もしかしてそれでシャワーも断られたのかも?
ほんと可愛い!
見えなくたって、触ればわかるのに。
暗くなったので遠慮なく、首すじを攻めながら胸を揉んだ。
柔らかい。
微かに喘ぎ声も聞こえてきて、遠慮がちだけど背中に手を回してくれた。
受け入れてくれるようで嬉しくなった。
ボタンを外すのももどかしく、服の裾から手を入れれば
「ねぇ、ちーちゃん」と呼ばれた。
え、やっぱりダメだった?不安になって
「今度はなんですか?」と聞けば
「ごめん」と謝られた。
別に「怒ってるわけじゃない」と伝えたら、驚きの質問が返ってきた。
とっても言いにくそうに
「ちーちゃんは、する方とかされる方とか……そういうの、あるの?」と。
私は、どちらでもいけるけど。なんで?
いつに間にか態勢が変わってて、攻められる不思議。
ちょ、待って。と言うまもなく。
「少しでも嫌だったら言ってね」
はっきり顔は見えないけど、声の感じから妖艶さがうかがえる。
また、ひーちゃんの別の一面を垣間見た。
「ひーちゃんになら何されても構わない」
心からそう思った。
なんだか攻める方がイキイキしてない?え、そっち側の人?ってか、上手すぎじゃない?
「うぐっ」
いきなり感じてしまうのも悔しい気がして我慢したら変な声が出た。
「声、我慢しないで」って、お見通しだし。
はぁぁ、もう好きにしてーーもっとしてーーと思ってたら
「ちーちゃんの裸が見たい」と言い出した。
自分は見せたくないから電気消したのに?
「ほんとわがまま」
しかも。
「自分で脱いで」と言う。
いいですよ、もう何でもしますよ。
あぁ、これが惚れた弱みってやつか。
惚れた弱みもあるけれど、それだけじゃなく、ひーちゃんの愛撫は確かに上手い。 甘いばかりじゃなく、ちょっと意地悪されたりして。
絶対、初めてじゃないよね?
結局、ひーちゃんは最後まで服を着たまま、私だけあっけなくイカされた。
ほんと、狡い。
そしてちょっとーーいや、かなりーーエロい。
ひーちゃんの過去は気になるけど。
でも、好き。
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