第4話 仮でも。

「夜勤おつかれさまでした」


 仕事帰りにウチにやってきたちーちゃんの第一声だ。

 再就職して3ヵ月、そろそろ良いだろうと夜勤が入った。

 今回は最初なので、指導を受けながらの2人夜勤だったけれど、慣れたら夜勤は1人でやらなければならない。なかなか大変だ。


「もしかして、寝てました?」

「ううん、お昼に2時間くらい寝たかなぁ、あんまり寝ちゃうと夜寝れなくなっちゃうし、そしたらちーちゃんと一緒に寝れないし」

「え?」

「あれ?今日は帰る?」

「泊まります!久しぶりだし。。あ、違っ、いろいろ話したいですから」

 途中から、何故か焦りだすちーちゃん。

「そうだね、珍しく勤務がすれ違ってたよね」

 職場でもなかなか会えなかった。


 ご飯を食べて、順番にお風呂へ入る。

 じゃんけんで、どちらが先に入るか決めた。負けたので先に入った。


「何してるんですか?」

 湯上がりの、ちーちゃんが近づいてきて聞く。

 ちょっとドキッとしながら答える。

「小説の続き、書こうかと思って。構想練ってた」

「続編ですねぇ」

 やった。という小さな声も聞こえた。

「どんな感じがいいかなぁ?」

「ん〜イチャラブ?」

「そうだよねぇ、もう別れさせたくないしね。ひたすらイチャイチャさせられるかなぁ、語彙力ないけど…」

「いくらでも、練習台になりますよ」

「あっ」

 そうだった。そういうていだった。百合小説のネタのために付き合うことにしたんだったっけ。

 そっか。ちーちゃんは、この前の夜の事も、そう思ってるのか。

「うん、よろしく」

 つい、そう言ってしまった。


 本当はそう思っていなくても、それを言ってしまったら、この関係は終わってしまうから。

 まだ、もう少し夢を見させて欲しい。なんて...ただの欲望だけれど...





「じゃ、今回は私が攻めますから!」

 ちーちゃんが宣言する。

「え?」

「いいですよね?受けの描写も必要でしょ?」

「うぅ、そうだけど...でも...」

「ごちゃごちゃうるさいです」

 そう言って、物理的に唇を塞がれた。

「...んっ...」

 宣言通り、初めから深いキスで蕩けそうなキスだ。

 唇が離れると、不安気に瞳を覗かれた。少し蒸気した顔で。たぶん私も同じように赤くなってるだろうけど。

「さすがに、上手だね」

 褒めたのに、少し拗ねた表情をしたのは何故だろう。と、考える間もなく愛撫が始まった。

「待って、ここで?」

「嫌ですか?」

「だって、明るいし」

 ちーちゃんは、はぁぁ。と溜息を吐いた。

「じゃ」と言って、手を取られ寝室へ連れて行かれ、ベッドへ座らされる。

「あのね、仮でも恋人同士なんだから。私は、ひーちゃんのこと好きですよ。ひーちゃんの全てが見たいです。いいですよね?」

 え?好き?好きって言われたの?もう、その言葉だけで力が抜けた--いや、腑抜けた--

 気付けば、「うん」と、頷いていた。


 ちーちゃんはニヤリと笑って、そっと私を押し倒した。

 キスを受けながら、するりと服を脱がされる。

 慣れている。まぁ、これは職業柄だ--利用者さんのパジャマを脱がせたり、着替えさせるのは日常茶飯事だから。

 自分だけ脱がされるのは嫌なので、ちーちゃんのも脱がす。

 途中まで脱がせたら自分で脱いでくれるから楽だ。

 素肌が合うのは、思ったよりもずっと気持ち良くて。

 ちーちゃんも「嬉しいです」と言ってくれたから、恥ずかしさも薄らいだ。

 ちーちゃんの愛撫に身を任せたら、気持ちよくて我を忘れた。



「ひーちゃん、大丈夫?」


 どうやら、いつの間にか達していたようで--正直、良すぎてよく覚えていない--

 心配されるほどだったのだろうか。

「記憶が曖昧」と伝えると驚いていた。

 そして「かなり喘いでいましたよ」と恥ずかしい事を言う。

「そんなに良かったですか?」と追い討ちもかける。

 それ、前回私が言った言葉だし。拗ねてみせたら「仕返しです」と微笑んだ。

 不思議なことに、覚えていないクセに気持ち良かった感覚はある。それはもう、男性とのソレとは比べものにならないくらいに。やっぱり女の子が好きなのかなぁ。とぼんやり考えていた。


「ひーちゃん?どうしたんですか?」

「気持ち良すぎて、あんまり覚えてないなんて。小説に書けないね...」

 自虐的に笑う。

「...じゃ、もう一度します?」

「え?」

「嫌ですか?」



「お願いします」



女の子にハマりそうだ。

いや、もうとっくにハマっているか。

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