第7話 覚醒

「ちーちゃん、さすがにもうギブ!」

「えっ、もう?」

「私をいくつだと思ってんの?」

「歳なんて関係ないでしょ、愛があれば」

「愛はあるけど、体力が......少し休ませて」

 本音がこぼれた。

 若いつもりでいても現実はこんなもん。

 いや、それも言い訳か。

 同じくらいの歳の人でも若々しい人はいる。


「しょうがないなぁ、まぁ、今日はちょっと攻めすぎたしね」

 ごめん、と珍しくちーちゃんが反省している。

「体力つけなきゃな」

 仕事をする上でも必要だ。

「一緒に筋トレでもする?」

 ちーちゃんの提案に

「一緒に筋トレかぁ・・・」



「ひーちゃん?また自分の世界に入ってる?」

「あ、ごめん」

 '一緒に筋トレ' というフレーズで、妄想の連想をしてしまった。

 筋トレ→汗だく→一緒にシャワー?そのまま??

 小説のネタになるなぁ、なんて。

「出会いはジムで?」

「えっ?」

 考えていたことを言い当てられた!

 妄想が声に出てた?

 驚いていたら、ちーちゃんはクスクス笑い出した。

「ほんと、ひーちゃん分かりやすい。浮気なんかしたら、一発でバレるね」

「う、浮気なんかしないし」

 ふうん。と言いながら、ごろんと、私の隣に横たわる。ちーちゃんの少し高めの体温を感じる。


「じゃぁ、離婚の理由は浮気じゃないんだね?」

「違うよー」

「相手の浮気とか?」

「・・・ん~元をただせばそうなるけど」

「複雑なの?」

「うん、あのね」

 ちゃんと話そうと思う。大切な人だから。

 そう思って、詳しく話そうと思ったのに。


「やっぱり、聞きたくない」

「へっ?」

「もう思い出して欲しくないから」

 元旦那のことなんて綺麗さっぱり忘れて欲しいと言う。

 それはまぁ、私だって出来ることなら記憶から消し去りたい。


「それよりも、聞きたいのは・・」



※※※



 そんな事より、ずっと気になってた。

「それより聞きたいのは・・」

 と言うと、ひーちゃんは不安そうに答える。

「なに?」


「由布院には誰と言ったの?」

「ん?あぁ、この前のテレビの?えっと、友達?」

「なんで疑問系なの?」

「はは......高校の同級生で卒業旅行で行ったの」

「名前は?」

「いくちゃん」

「好きだった?」

「......」

「二人きりで卒業旅行行くくらいだから、好きだったんだよね?」

「...はい」

「それは、恋愛的な意味で?」

「ん〜違う、と思う。でも......」

 なんだか、ハッキリしない態度のひーちゃん。

「でも、なに?」

「体の関係はあった」

「はぁ?それは付き合ってたんじゃないの?」

「じゃないと思う。好きとか付き合おうとか言ったことないし」

「じゃあなに?セフレ?」

「女子高生で?そんな感じじゃなかったけどなぁ。よくわかんないけど」

 わかんないのは、こっちだわ。

 でも、ひーちゃんは嘘を言ったりする人じゃないと思うから。

「じゃ、質問を変えます」

「わっ、ちーちゃん、弁護士みたい!」

 ニコニコする、ひーちゃん。調子狂うなぁ。

「初めてのキスは?」

「いくちゃんと」

「どっちから?」

「私から」

「好きとか言わなかったの?」

「言わない」

「えっ、無理矢理?」

「違うよ、キスしていい? って聞いたら、いいよって言われたから」

「なんでキスしたいって思ったの?」

「・・・なんでだろ」

「好きだったんじゃないの?本気で」

「そうなのかな?でも卒業以来会ってないし、それからは男の人としか付き合ってないし。でも、そうか。そっちが仮の姿だったのかも。いつも長続きしなかったしな。そっか、私、女の人が好きなのかぁ」

 なんだか一人で納得しちゃってない?

 しかも、なんかニヤついてるし。

「ちーちゃん!」

「は、はい」

「キスしていい?」

 ふぇ?

 答える前に、ひーちゃんの顔が近づいてきて、唇が重なった。

「っは。まだ、いいって言ってない!」

「ちーちゃんが好き」

「...っつ」

 さらに深いキスが来て、そのまま......

「ちょ...ひーちゃん。ギブって言ってなかった?」

「する方は、大丈夫!」

「なっ......」


 

 この後、ギブって言うまでやめてくれなかった。

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