警戒と対応
ああ、やっぱり別のウンディーネだな。
まだ、離れた位置に居るから体の大きさがよくわからないけど、少なくともこの先にいるウンディーネはスゥよりも背が高いだろう。それに女性としてのあれそれもスゥとは大分違う。
もう少ししっかり確認しようと思い、近付いて行く。
そんなことを考えながら近付いて行くと、そのウンディーネも俺の方へ近付いて来た。
まだ、距離はあるのだが、どうも様子がおかしい。いや、おかしいではなく、俺に敵意を向けているような……。
これ以上近付くのは危険な気がしたので足を止める。
「お前、何故ここに居る?」
がっつり敵意というか警戒心剥き出しの反応だ。俺が何かやったか、と思うがそもそもここには滅多に人は来ない。そんな存在がここに居て、自分の事をじっと見ていたとなれば警戒するのも当然か。
「知り合いにここに戻ると約束したんだ。だからここに居る」
警戒されている以上、下手に嘘を吐くのは駄目だろう。それに嘘を吐く理由もないからな。
しかし、目の前にいるウンディーネは俺が言ったことを信じていないのか、訝し気な目で俺の事を見て来た。知らない奴の言葉をすぐに信用しないのは普通だけど、あからさまな態度を取られると少し落ち込むな。
「……その知り合いとは誰だ?」
ウンディーネの問いに、スゥの名前を言おうとしたんだが、果たして言って良いのか判断が出来ず、すぐに言葉が出せなかった。
「何だ、約束したというのは出まかせか」
「いや、そうではないんだが……」
「では、どうしてすぐに言わない?」
「勝手に名を出していいのか、判断が出来なかったんだ」
俺がそう言うとウンディーネはまだ少し訝しんでいる様子だったが、小さく考え込んでいるような仕草をした。
最初に声を掛けて来た様子が結構警戒しているみたいだったから、すぐにでも俺を排除するか追い返すのかと思ったんだが、意外と話は通じるようだな。
正直、先ほど魔物を倒していた様子からしても、俺ではどうやっても抵抗できそうにないので、話し合いでどうにか出来るならこちらとしては有り難い。
「その知り合いというのは人間か?」
「いや、ウンディーネだな。たしかこの位の身長の子だ」
スゥの身長を思い出して大体これくらいといった感じで示す。それを見てスゥだと思い当たったのか、それとも別の事を思い当たったのか、少しだけ納得した様子でウンディーネは「あれか」と小さく呟いた。
「おおよそ、その相手が誰なのかは理解した。その上で確認としてその者の名を聞かせて貰っていいか? 予想の通りであれば私とその者は知り合いだ」
「そうなのか?」
「ああ」
うーん。スゥと知り合いらしいけど、それが本当か確認する方法がない。しかし、同じウンディーネなら名前を出しても問題は無い気もするな。って、そう言えば……。
「うーん。俺は貴方の言葉が本当かどのかはわからないけど、よくよく思い返してみれば、約束はしたが戻ってきたことを連絡する方法がない。教える代わりにその子を呼び出してはくれないだろうか」
「む。……まあ、そちらも警戒するのも当然か。それに呼び出すくらいならさほど手間ではない。いいだろう」
あっさり条件を呑み込んでくれたな。本当に手間ではないのだろうな。ウンディーネ同士の繋がり、と言うか何かがあるのかもしれない。
「そうか、ありがとう。俺が約束した子の名前は――」
俺がスゥの名前を告げようとしたところで突然、湖の方で大きく水しぶきが上がった。何事だ、と水しぶきの上がった方を確認するとそこには、と言うか、目前までスゥの姿が迫ってきている事が確認できた。
ここまで迫って来ていると、どうやっても躱しようがないし、受け止めるにもこの勢いからして無理だな。いや、出来る限りは受け止める努力はしよう。
そう思って身構えていたのだが、スゥは俺の体を掴むとそのまま湖の方へ引き返し、俺はスゥによって湖の中へ引きずり込まれた。
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