閑話 捜索は難航する


「兄さんはまだ見つかりませんか」

「ああ、どうやら崖を何かが転げ落ちた形跡は在ったらしいが、それ以外の痕跡は一切見つかっていないようだ」

「そうですか」


 ルークが行方不明になってから1週間が経った。しかし、ルークの家族はまだ、ルークがどこに居るのかの情報を殆ど掴めていなかった。


「一応、崖に在った痕跡については、落ちそうになったところを助けたにしては、痕跡が付いき始めている部分に違和感がある感じですね。おそらく崖側に飛び込まない限りつかないような所から痕跡が付き始めていますから」


 ルークの家族が雇った捜索隊の一員は捜索結果が書かれた書類を読み上げる。しかし、それには今言った以上に目ぼしい情報は書かれていない。


「近くに血痕などは在ったか?」

「調査した限りなかったそうです」

「そうか」

「痕跡についてもおそらく雨が降ればわからなくなる程度の物しかついていなかったようです」


 調査員が言うように、雨が降ってしまえば崖肌についている痕跡などはあっさり消えてしまうだろう。そうなってしまえば、その痕跡は証拠として使えなくなってしまう。


「それは拙いが、そもそも痕跡が証拠として力を発揮するかと言うと微妙なところだな。それが、ルークが落ちた痕跡だと証明するのも難しい。さらに言えばあれがルークを突き落としたと証明することも不可能だな」

「ええ。崖肌を調査出来れば他の痕跡を見つけられるでしょうが、あそこの崖は下が湖になっていますし、傾斜がきついので降りて確認することも出来ません」


 捜索隊の人員も大分苦戦しているようだ。どれだけ時間が掛かるかもわからないため、それほど人数を雇っていないのもあるのだが、場所が1番の問題だ。


 基本的にこの世界の調査や探索は地道に足で稼ぐ以外に方法はない。魔法は存在するが、それを人探しに使うなどは一切ないし、使うと言う発想にはならない。そもそもまともに魔法が使える人員が多くないと言うのも理由の一つだろう。


 一応ルークの家族は魔法を使うことは出来るが、あくまでも一応の範囲であり探索に使える程ではない。また雇った調査員の方も同様である。


「おそらく崖肌に兄さんがいる可能性は低いでしょうから、次からは湖の方の捜索をお願いします」

「了解しました」


 探索隊員はそう言って帰って行った。



 ルークの父親は探索隊員が居なくなった部屋で大きなため息をついた。


「これは見つからない可能性が高いかもしれないな」

「父さん、捜索を始めてまだ1週間しか経っていないのですよ? 諦めるのが早いのではないでしょうか」

「こう言うのはな、時間がたつごとに難しくなっていくものなのだ。それに時間が掛かると言うことは、あれにも偽装なり言い訳なりを考える時間を与えることと同義だしな」

「それは理解していますが、まだ探索している範囲が狭いので見つからないからと言って、諦める程ではないですよ」

「そうだな」


 実はルークの父親は、ルークが直ぐに見つかると思っていた。楽観視しすぎていたために1週間たっても碌な情報が入って来ないと言う状況に、不安が一気に押し寄せて来たのだ。


「それに明日からは湖の方の捜索を始めるので、さすがに見つからないと言うことは無いでしょう。あの湖には大型の魔獣は住みついていませんし、食べられて証拠が無くなると言うことは無いですからね」

「そうだと良いがな」


 未だ碌な情報が入って来ない不安に苛まれながら、ルークの家族は新しい情報が届くことを祈る。


 ルークの家族は一縷の望みをかけて、ルークが見つかることを切に願っていた。

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