しっかり考えてほしい

 



 スゥの年齢次第では連れ出すというか一緒にいるのもなかなかに危ないのではと判断し、すぐにスゥの年齢を聞いたところ13という答えが返ってきた。


 元の予想より若くはあるが正直、ちょっとだけ安堵している。が、この年齢でも普通に危ない橋を渡ることになりそうな気がする。

 とはいえ10歳ではなかったのは本当に良かった。


 貴族だったらこのくらいの年齢で婚約なり結婚するという話も聞かないでもないが、俺は商家の出とはいえ平民だ。いくらなんでもそんな年齢の女の子に対して今の気持ちを抱くのはなかなかに来るものがある。

 13歳もまあ若くはあるが、家によっては学園に通わせている年齢ではあるし、俺と3つしか変わらない。

 そもそも元婚約者のカイラと1歳しか違わないのだ。


 一般的な感覚から言えば早いと言わざるを得ないが、ありえないというわけでもない。


「どう…したの?」


 俺が変に落ち込んでいる理由がわからないようで、スゥは不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。

 

「…大丈夫。何でもないよ」

「そぅ?」 


 これの言葉を聞いてまだ心配そうに見ているスゥが首を傾けながら返事を返してきた。


 しかし、年齢の割にかなり精神面が何となく幼いんだよなスゥは。やっぱり他人との関わりがないと精神的な成長がゆるくなるんだろうか。……いや、それはないかな。


 ちゃんと学校に通っていたはずのカイラの性格は悪い意味で子供だったからな。だからまぁ、スゥのこれは生来のものだろう。

 それにスゥの場合、単純に知識が足りないから幼く感じている部分もありそうだし、しっかり知識や常識を身に着ければ年相応に見えてくるだろう。たぶん。


 ともかく、13歳ならまあ許容範囲内だろう。すぐにあれこれあるわけでもないし、予定通りことを運ぶことができれば当分の間はかなり忙しくなる。

 そうしていれば2,3年なんてすぐに過ぎていくだろう。


 ま、それ以前にスゥがこれからのことを受け入れてくれるかどうかわかっていないんだけどさ。


「スゥは、さ」

「うみゅ?」

「さっきも言ったけど、ここを出て生活するの本当にいいのか?」


 さっきは勢いで行くと言っていたようなものだったし、ちょっと間があいて


 こんな何度も聞いていると本当は来てほしくない、みたいに受け取られかねないが勢いだけでついてきてほしくはないのだ。

 しっかり考えて、というのは今のスゥには難しいかもしれないが、ついてきたことを後悔してほしくない。

 

「いい。ルクが、行く…ならついてく」


 スゥは何の迷いもなくそう断言した。しかし、先ほどと同じ答えだったことで少しだけ不安が募る。


「ここから出ていくってことだけど大丈夫なのか?」

「うん」

「ここに二度と戻ってこないとしても?」

「うん。ここじゃなきゃ、いけない…理由…ない」

「それじゃあ、この湖に戻れなくなったとしても?」

「……え?」


 やっぱりそんなに遠くに行くことは考えていなかったみたいだな。俺が単に出ていくとしか言わなかったから、出ていったとしても近くに住むことになるんだと思ってしまったんだろうけど。


「ここ、湖……離れる?」


 湖を離れるという可能性を考えてもいなかったようで、スゥはどうしたらいいのかわからない様子でうわ言のようにそう言葉を漏らしている。


「まあ、今すぐ行くわけじゃないから、しっかり考えておいて」

「う、うん」


 これからいろいろやらないければならないことがある。ここを出たとしても住む家をまだ整えていないし、スゥにもあれこれ生活する上で教えておかないといけないこともある。

 手伝ってもらいたいこともあるしな。


 だから今すぐに連れていくというのは無理だから、それまでもうちょっとしっかり考えて答えを出してくれると嬉しい。



 ―――――

 次は閑話になります

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