スゥとの生活
食事
俺がスゥに助けられてからおそらく2週間が経った。おそらくというわけは、そもそもここが常に明るくて昼夜の感覚が狂ってしまっているからだ。いや、それ以外にも理由はある。
一応、スゥに確認すればわかるのだが、想像以上に人間とウンディーネのライフスタイルが違うため、それすら正確なのかわからなくなってきているからだ。
いやだってさ。ウンディーネの生活って、食べたいときに食べて寝たいときに寝るって感じなんだよ。人みたいに朝起きて朝食を食べて、暗くなって来たら夕食を食べて、その後寝る。みたいな生活リズムが一切ない。
だからおそらくこれくらい経っただろう、まではわかるのだけど、あれ今日何回寝た? いつ食事したっけ? といった感じで近々の記憶すら曖昧になっている。
まあ、ここに居る以上何かをしなければならないわけではない。
スゥに食べ物を取って来てもらっているのは申し訳ないけれど、俺だけでは外に出られないし、まだ怪我の方が完治していない。
いや、表面上の怪我である擦り傷や打撲はもうすっかり治っている。
と言うか、どうやらスゥが定期的に回復魔法をかけてくれているらしく、治りがかなり早い。
ただ、骨折しているらしい腕の痛みはまだ完全に取れていない。さすがに骨が折れてしまっていると回復魔法でも直ぐには治せないようだ。
「おかえり、スゥ」
「ただいま。さかな、とてきた。たべよ?」
「ああ、ありがとうな」
「みゅふ、うん」
感謝の気持ちを込めてスゥの頭を撫でる。ちょっと変な笑い方だけど、可愛いし嬉しそうだから気にはならない。
スゥの頭って結構撫でやすい位置にあるんだよな。俺が180センチ手前くらいの身長だから、スゥはたぶん150センチくらいだと思う。
もう、なんかさ。小動物的な可愛さと言うか守ってあげたくなるよね。いや、まあ、実際は俺が守られている側だし、ご飯も取って来てもらっているけどさ。
「今日はスゥの分の魚は焼くか?」
「む、む、うん!」
悩んでいる姿も可愛いな、と思いつつ最初に魚を差し出された時を思い出す。
最初にスゥからご飯と言って生の、しかもまだ生きている魚を渡された時は本当に焦った。
ウンディーネは基本的に調理をしない。と言うか調理という物を知らない。そもそもの話し、火を使う文化を持っていないのだ。まあ、ウンディーネは水辺に棲んでいるし、水の精霊が火を扱えるとは思えないから当然かもしれないけど。
要するに、基本生食。しかも丸ごとそのまま食べるのがウンディーネにとっての食事なのだ。
ただ、俺は人間であり、そのまま魚を食べるようなことはしたことが無いしできない。と言うか、最初は拒否するのは取って来てもらった手前、心苦しかったし可哀そうだと思ったからそのまま食べようとした。まあ、鱗は堅いし生臭くて無理だったのだけど。
それで、どうにか調理出来ないかと考えた。しかし、ここは洞窟内だから火を使うのは危ない。そう思ってスゥに聞いたら、どうやらこの洞窟は地上部分にも繋がっているらしい。ただ、人が通れるような広さではないし、出る場所が崖の中腹らしいから通れたところで結局は出られないようだ。
とりあえず、空気が流れているなら問題ないと言うことでそれ以降、魚は焼いてから食べている。ああ、火種に関しては俺が魔法で出している。一応、魚を焼く程度なら俺でもどうにかできるのだよ。
「これ」
「ん? 半分で良いのか?」
「うん」
「そうか。じゃあ、焼くな」
「ん!」
スゥから魚を3匹受け取る。今日は2匹ずつのようで、スゥは生と焼きの両方を食べたいようだ。
最初に焼き魚を上げてから割と気に入っているようだけど、凄く好みという程ではないらしい。そもそも、調味料がないのだから味が極端に変わるわけもないからな。
まあ、スゥからしてみれば、焼けば生臭さや食べ辛さは減るけれど、食べ慣れた方も食べたいということなのかもしれない。少なくともウンディーネ的には食にそこまで拘りはなさそうだしな。
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