水樹の実
確認で四肢に力を入れてみる。腕を曲げる。しゃがんでみる。
うん。痛みは出ない。たぶん骨折とかも治ったと思う。もしかしたら、まだ完全に骨がくっ付いていないかもしれないが、少なくとも普通に動く程度なら支障はない。
これはここに居られるのも後少しかもしれない。スゥがここまでしてくれた理由はまだ聞いていないが、怪我が完治したのなら出て行くのは道理だろう。もう少し長くスゥと過ごしていたいが、家のことも在るし帰らないと拙い気がする。
思い出したくはないがカイラが俺を蹴落として殺そうとしたのは、婚約をした際に交わした契約を都合のいいようにするためだろうからな。
さて、何時ものようにスゥが魚を取って来たみたいだ。
「さかな、とこれ」
「ん?」
スゥが俺に渡してきたのは何時もの魚と果物らしきもの。魚は何時もスゥが取ってきている奴だし市場とかでもよく見る奴なのだが、今差し出られた果物は見たことが無い物だった。
「ごめんスゥ。これって見たこと無いのだけど、食べられるやつなのか?」
取って来てもらった手前、言いたくはないが、もし食べられない上に食べたら腹を下すような物だったら困る。
ただ、これを持って来てくれた理由は何となくわかる。正直ここに来てから食事は魚とたまに水草のような物だけだったから、多少飽きてきていた。そんな俺の様子を見てスゥが何時もと違う物を取って来てくれたのだろう。
「だいじょぶ。私もたまにたべる」
「そうか。なら、ありがとう」
「うん。すいじゅの実、おいしい」
「すいじゅ? 水樹か? 水の樹って書いて水樹?」
「うん。あってる」
聞いたことが無い樹の名前だ。この湖の近くに生えているのか? 確かこの湖って中には凶暴な魔物は居ないのだけど、周囲には割と肉食の魔獣が住んでいるからあまり人が来ないらしいからな。もしかしたら、そう言う物が人知れずあるのかもしれない。
水樹の実をじっくり確認してみる。リンゴのような見た目だけど少しだけ柔らかいな。おいしいと言うことは甘いのだろうか。そうなら魚を食べた後に食べるべきだな。
そうして俺はいつも通り魚を焼いて食べた。毎度思うけど塩味が欲しい所。ただ、ここは湖だし海が近い訳でもない。そう言えば3週間近くここに居るが、そろそろこの食生活では栄養が偏っていて体調を崩しそうな気がする。今の所その予兆は無いのだけど。
さて、食後のデザートとして水樹の実を食べてみよう。
「これはこのまま食べていいのか? 皮をむいた方が良い?」
「そのままでだいじょぶ。いつもそのまま食べてる」
「そうか。そう言えばスゥの分は無いのか?」
「1こしかなってなかった」
「なら、半分こするか」
「え? でもルクにとてきたのだから」
「1人だけ食べるのは嫌だから、半分こにして一緒に食べよう」
「あ、うん!」
一緒に食べようと言ったのが嬉しかったのか、それとも本当は食べたかったのか、とにかくスゥは嬉しそうに頷いた。
「まぁ、言った手前俺だと綺麗に切れないから、スゥ、切ってもらっていいか?」
「うん!」
スゥはそう言うと水樹の実に向かって人差し指を縦に振った。すると水樹の実は何の抵抗もなく2つに分かれた。
正直何をしたのかは見えなかったが、おそらくウォーターカッターのようなものを指先から小さく出して、それで水樹の実を切ったのだと思う。
「はい」
「ありがとう」
スゥにお礼を言いつつ、水樹の実の断面を見る。水樹の実は白い果肉であり瑞々しく水滴を湛えている。確かに見ただけでもおいしいそうだ。
「いただきます」
「ん!」
「うぅん? うお!?」
水樹の実を口に入れ咀嚼する。噛むと果肉から水気が溢れるが、驚いたのはそこではなく味。さわやかな甘みとほんの少しの酸味。そして薄っすら感じる塩味。そう、水樹の実から塩味を感じたのだ。
今まで食べたことのある果実に比べて不思議な味ではあるが不味くはない。むしろかなりおいしい部類に該当すると思う。
しかし、何故塩味を感じるのだろうか。よくはわからないが自力で塩味を生成するのか?
「どう?」
「ん? ああ、凄くおいしいよ。まさかこんな果実があるとは思っていなかったから驚いていたのだ」
「みゅふ。よかった」
感謝を込めてスゥの頭を撫でる。スゥは撫でられてとても嬉しそうにしているが、撫でられるのが好きなのかもしれないな。
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