一旦家に戻る
ここに来てから1月以上経った。さすがにもう何日経ったかがわからなくなってきたな。たぶん5週間くらいだと思うのだけど、こうなってくるといつの間にか3カ月目が過ぎていそうで怖くなってくる。
「スゥ、そろそろ俺は家に帰らないと拙い。怪我も治っているし、ここを出ても問題はないと思うのだけど」
俺がそう言うと、隣で寝床の草を整えていたスゥが驚いたように手に持っていた草を落とした。
「え? ま、まだ、居ても良いよ?」
「俺も出来ればそうしたいのだけど、家の方で問題が起きているだろうから」
「で…でも」
「それにここに居ると碌に動けないから体の調子があまり」
「あ、えと。もし…かして嫌いになたの?」
え……ちょっ! スゥが涙目になってる!?
「いやいや、別に嫌いになったとかじゃないから!」
だけどなぁ、怪我が治っていない時はまだよかったのだけど、さすがに治った後に動けないのは何か色々溜まる。多少動いてはいるけれど、それだけでは足りないし、ここ1月殆ど動いていなかった所為で筋力も落ちているから体が鈍っているのがよくわかるのだよな。
家に帰らないにしてもこの洞窟からは出た方が良いのは事実だろう。
「だったらべつにでてく、必要ない」
「いや、だから」
「1人、寂しい。だからいかないで」
「え? あーそういうことか」
スゥがどうして俺をここに入れてくれたのかをようやく理解できた。単に寂しかっただけなのだな。最初の頃に聞いたけどウンディーネは割と早い内に親から離れるらしいから、元々甘えん坊だったスゥはずっと寂しい想いをしていたと。そしてそこに俺が落ちて来たから、寂しさを紛らわせるためにか。
「寂しいから居て欲しいか」
「うん」
「それは……いや、今はいいか」
「?」
俺が何を言いかけたのかが気になるのかスゥは首を少しだけ傾げてこちらを見ている。
寂しさを紛らわせる相手がだれでもよかったのかどうかはわからないけど、今までのスゥの対応から、少なくとも俺でないと駄目だと言うことはなさそうだな。
少し悲しいが、現状スゥが求めているのは俺ではなく自分を構ってくれる他人だろう。
とは言え、俺が今後もスゥと一緒に居たいのは本当だ。今は一緒に居るのが俺でなくてもいいのだとしても、何れはスゥに俺でなくては嫌だと言って欲しい。
それを実行するにしてもまずは、家の問題を片付けなければ難しいだろう。何にしても、憂いなくスゥと居続けるためには、家に戻ってカイラの問題を片付ける必要があるな。
「スゥ、ごめん。やっぱり一回は家に帰らないと駄目だ」
「え? やだ」
「もう戻ってこないって訳じゃない。少し日が開くだろうけど、俺は確実に戻って来るつもりだ」
「直ぐ、戻ってこれない?」
「あー、少なくとも1週間はかかるかも」
あの時、場所で着くまでに掛かった時間を考えれば、おそらく徒歩で半日以上は掛かる。それにここは崖下だから、どこかで崖の上に上る必要もあるな。そうなるとたぶん、遠回りになってさらに時間が掛かるだろう。
「長い」
「それでも、一回は家に戻らないと拙いんだよスゥ。必ず戻るから、信じてくれ」
「絶対もどてくる?」
「絶対、必ず戻る。約束する」
「わかた」
と言うか、速攻戻って来る。
よくよく考えれば、相手が誰でもいい場合、最悪戻って来る前に他の男とスゥが、って可能性もあるんだよな。
うわ。想像しただけで吐き気がする。
スゥに洞窟の外に運んでもらい、そのまま湖の岸まで連れて行ってもらった。
最後までスゥは寂しそうな表情を浮かべていたけれど、洞窟内とは違い、俺を引き留めるような言葉を出すことは無かった。
そんな我慢しているスゥの様子を見ながら俺は何が何でも、出来る限り直ぐに戻って来てやる。そう心に誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます