許嫁と出かけていたのだが崖から落とされ殺されかけた!? もうお前がどうなろうがどうでもいい! 俺は助けてくれたウンディーネと幸せに暮すんだ!

にがりの少なかった豆腐

いきなり崖から突き落とされるなんて想定してない

助けてくれたのは

久しぶりに会った許嫁に婚約を破棄されて、崖から蹴落とされたんだが

 

 久しぶりに許嫁から出かけの誘いを受けた。俺とは違い、まだ学校に通っている許嫁は最近なにやら忙しいらしく、予定も合わなかったためあまり会うことも無くなっていた。


 許嫁とは小さい頃からの付き合いだ。家の融資の関係で家間の繋がりを強くするために親同士で決めたことだ。


 正直なところ、許嫁は見た目が良いとは言えない。はっきり言って平均以下だろう。だが、俺は親同士が決めたのだからと受け入れて、出来る限り愛そうと思っている。


 見た目よりも中身が大事。実際にそうだろう。綺麗だからと言って、浮気ばかりされても嫌だし寄って来る男が多いのも不安だ。


 それに別段俺も見た目が良い訳ではない。少なくとも他の女に言い寄られたことは無いし、見た目が良いとは一度も言われたことは無い。弟のダイスは顔も性格も良いから女が良く寄って来るらしいが、そこから生まれる厄介ごとを聞いていると羨ましいとは殆ど思わない。いや、多少は思うけどな。


 許嫁のカイラに指定された場所に着くとそこには馬車が止まっていた。そしてその脇には久しぶりに見る許嫁の姿があった。


「ああ、久しぶりだなカイラ。学校の方はどうだ?」

「久しぶりルーク。学校の方も順調よ。ええ、とっても」


 何か言い方に含みがある気がするが、元より言葉選びが変わっている子だから気にしないで良いだろう。


「早速だけど行きましょう。時間が惜しいわ」

「そうだな」


 そうして俺は目的地も知らないまま馬車に揺られていった。




「今日はここでピクニックをしようと思うの」


 そう言われて馬車から降ろされた俺の目の前には森と言うか、その先に崖が見える。ああ、ここってよく聞くデートスポットじゃないか? 確か崖の下に綺麗な湖が広がっているとか言う。


「ルークはちょっと湖でも見て待っていて。準備してくるから」

「? ああ」


 何の準備だ? 昔から面倒なことは全て使用人に任せていたのに、学校に通っている間にその辺りは自分でするようになったのだろうか。まあ、しっかり出来るようになったのなら嬉しい限りだな。


 俺はカイラに言われた通り湖を眺めながら待つことにした。

 綺麗な湖だな。光が湖面に反射してキラキラしている。しかし、さすがにこの高さは怖いな。下まで100メートルは無いだろうが落ちたら死ぬんじゃないか? 何でここがデートスポットになっているのだろうか。まさか、告白して断ったら下に落とすとかそう言う流れを作るために?


 ……いや、さすがに無いだろう。無い…はずだ。


「ルーク。待たせたわね!」

「いや、そんなに待ってはいな…いんだが、そいつは誰だ?」


 後ろからカイラの声がしてそちらに振り向いた。そこにカイラは居たがその隣には見たことのない男が立っている。

 これは、嫌な予感しかしないな。


「あのねルーク。私あなたとの婚約を破棄したいの。でもね、こちらから婚約を破棄すると融資の話が白紙になってしまうのよ。だから、ルーク側の責任にすればいいと思ったの」

「……えーと、どう言うことだ?」


 嫌な予感は当たるものだな。と言うことは、隣に居る男は婚約を破棄した後に付き合う男、と言うことだろうか。


「好きでもない男と結婚なんて嫌じゃない。それに私にはもうアギーが居るの。だからね、ルーク。ここで死んで?」


 頭の中が真っ白になる。まさか死ねとまで言われるとは思わなかった。しかも、躊躇なく言葉に出したと言うことは、元からそのつもりでここまで計画していたのだろう。


 だが、死ねと言われて、はいそうですか、と言うやつはそう居ない。俺も言わない。そもそもどうやって殺すつもりだ? まさかここに連れて来たのは…っ!?


 何かが俺の顔目掛けて飛んできたので咄嗟に腕でそれを受け止める。すると、それは腕に当たった瞬間崩れた。感触からして泥団子か? なんっ!?


 飛んできた泥団子に気を取られたのがまずかった。一瞬の間にカイラが俺に迫り、そして全体重をかけて俺を崖側に蹴り込んできた。


「ふんっ!」

「んがぁっ!?」


 これはあまり意識しないようにしてきたが、俺の体重よりもカイラの体重の方が重い。その所為で俺は勢いよく吹き飛び、崖の向こうに跳び出してしまった。

 そして落下が始まる。ここの崖は断崖と言う程垂直ではない。きつめではあるが傾斜があるのだ。それゆえ、俺の体は崖を勢いよく滑り落ちる。時折、存在している岩などの突起に体が当たり激しい衝撃と激痛が走る。


 ああ、これは無理だ。下に落ちきるまで生きているかもしれないが、どうあっても死ぬ。既に腕はあらぬ方向に向いているし、脚の感覚もない。おそらく肋骨も折れているだろう。


 そして、辛うじて意識があるが、もう体中の感覚が無い状態で俺は湖の中に落ち、沈んで行った。


 ああ、俺はここで死ぬのか。そう思い目を閉じた瞬間、何かが聞こえた気がした。

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