今後のために
湖に急ぎ戻る
父さんたちとの家に関する話し合いが終わって数日。
あることに関しての調べ物をしていたら、思いの外時間が掛かってしまった。すぐに戻るとスゥと約束したのに、スゥの元を出てからすでに10日近く経ってしまっていることに、少し焦りを覚える。
とは言え、あれについては調べない訳にはいかなかったのだから仕方ない事ではある。どうしても今後、スゥと一緒に過ごすには必要な事だったし、半年という短い間に達成しなければならないことが多いのだから、その下準備は絶対に必要だ。
それと、カイラの実家であるヘキスト子爵家との契約により、リグラント商会からの融資の話しは無くなったんだけど、同時にヘキスト子爵家側の理由により婚約が破棄されたため、リグラント商会はある物をヘキスト家から受け取っている。
もともと、俺とカイラが婚姻することで、ヘキスト子爵家はうちからの融資を、リグラント商会はヘキスト子爵家が所有している土地の一部を貰うことになっていた。
商会からの融資と土地では、土地の方が金銭価値が高いため、普通はつり合いが取れていないものだが、ヘキスト家が契約の際に出してきた土地は少し問題のある土地だった。そのため、融資と土地でつり合いが取れる、というヘキスト家の主張によって契約は纏まった。
しかし、実際にその土地を調べてみると、かなり使い勝手の悪い上、そこそこな広さを持った土地で、少し問題があるという程度のものではなかった。
土地を持つ者は1年間に1度税を払わなければならない。これは貴族だけではなく土地を持っている平民にも当てはまる。そのため、何かにつけて使い勝手の悪い土地と言うのは、ただ税金を払わなければならない厄介なもの扱いをされる。
ヘキスト子爵家の主有していた土地はそれに該当するものだった。要は、婚約が破棄され融資の話が無くなったとしても、ヘキスト子爵家にとっては毎年無駄にお金を消費するだけの要らない土地を、リグラント商会に押し付けることが出来た訳だ。
この土地はリグラント商会にとっても扱いに困る土地だ。売るにしても隣接している土地を所有しているのは貴族だし、その貴族との繋がりはない。しかも、その貴族たちはヘキスト子爵家との仲はあまり良くないときた。今後関わることが少なくなる見込みであっても、ヘキスト子爵家と繋がりがあるリグラント商会ではその貴族たちと関わるのはリスクが高いし、関わるにしてもそれに費やす人員や時間もそれほどない。
しかしだ。俺にとってこの土地はある意味、渡りに船だった。
実のところ、今から向かっているスゥが住んでいる湖は所有者が居ない土地ではあるが、管理している人物は居た。その人物がヘキスト子爵家から受け取った土地に隣接する土地を所有している貴族だったのだ。
運がいいのかどうかはまだわからないけど、これを利用してあの湖の管理権を手に入れるか、管理する人員に入れてもらうことが出来れば今後の事を考えれば十分な結果にはなる。
まあ、相手は貴族だから、最善の結果を得るのは厳しいだろうけど、出来ることはしよう。
ようやく湖に戻って来ることが出来た。途中から馬車ではなく徒歩移動になってしまったため、予想よりも移動に時間が掛かってしまった。
時間的に、そろそろ日が暮れ始めるくらいだろう。早く湖まで移動してスゥに合わなければ危険な状態になってしまう。
そう言えばこの湖の崖の上はデートスポットとして有名であり、女神の湖と呼ばれているらしい。調べたところ正式な名称は精霊の湖らしいので違う名称が伝わっていることになるが、精霊の湖という名前からして、昔から水精……ウンディーネが住み着いていることは知られていたという事だろう。
調べただけでは今この湖が、どのような認識になっているかはわからなかったが、少なくともスゥが住んでいるから名称に間違いはない。
ただ、俺が水精の存在を物語の中だけの存在と認識していたことから、大半の人は同じ認識の者は多いはずだ。少なくとも俺が通っていた学校ではそのような事は習わなかったからな。もしかしたら貴族にとっては基礎知識扱いなのかもしれないけど。
湖の湖面が見えて来た。
魔物除けの魔道具を装備しているからここまで魔物に遭遇することは無かったけど、実際に遭遇したらやばいんだよな。
一応、魔法は使えるから抵抗は出来るけど、魔物の強さによってはそれも難し……い?
「え?」
森を抜けて湖畔に出たところで、少し離れた所に熊型の魔物と対峙しているスゥと思われる少女が見えた。
咄嗟に助けに入らなくては、という考えが浮かんだが、さすがに熊型の魔物は俺では手に余るどころではないし、助けに行っても足手纏いでしかない。
しかし、俺がそんなことを考えている間にスゥは熊型の魔物を倒し終えていた。
「うん?」
あれ、なんだろう。何と言うか、別れた時のスゥとなんか印象が違う気がするような。よく見たら体の大きさも違う気が。もしかして別のウンディーネ……なのか?
明らかに俺が知っているスゥの雰囲気とは異なる空気を纏っている少女が、俺の存在に気付いたのか、こちらの方へ振り向いた。
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