閑話 フィオレ伯爵家

 

 

「よかったのか。あれで」

「えぇ、ありがとう。あれでよかったと思うわ」


 とある理由で交渉に来ていた青年が屋敷から出て行ってしばらく。

 交渉の場として使っていた部屋から自室に帰ったところでフィオレ伯爵は部屋の中で待っていた女性に声をかけた。


「君が大丈夫だというから許可を出したが、あの泉は君にとって大切な場所だろう」

「そうだけど、別に私のだけの場所ではないから。それにあの人からあの子の魔力を感じたの」


 その言葉を聞いたフィオレ伯爵は少し考え込むような仕草をする。


「それは……」

「悪いことじゃないでしょう。あの子はあまり他に関わろうとしないし、ちょっと内向的だったでしょ」

「そう言われても私はそこまで関わっていないから同意することはできないぞ」

「ふふ、そうでした。ごめんなさい」


 フィオレ伯爵が不満げにそういいながら悲しそうな表情をすると女性はそれをみてクスクスと笑いを漏らした。

 このやり取りから普段どちらが主導権を握っているのかがうかがえた。


「まあ、君がいいと思っているなら悪いことにはならないか。君の勘はよく当たるからな」

「絶対じゃないけどね?」

「本当かな。今まで君の予感が外れたことはなかったと記憶しているが」

「曖昧なものは口に出さないから、あなたにはそう見えるだけよ」


 女性がそう言うとフィオレ伯爵は納得がいっていないような表情をした。


「それで、あの彼にはできるって言ったけど、実際大丈夫なの? 今まで国から管理してくれって要求があっても取り合わなかったのに」


 伯爵の様子を気にする様子もなく女性は先ほど来ていた青年と交わした約束について聞く。


「問題ない。どんな理由であれ、国は誰も管理していない土地があるのが嫌なだけだからな。人に貸すという理由であっても管理権はこちらに渡してくるだろう」

「ならいいのだけど」

「それに先々代のごたごたの中、奪われていた土地の一つが帰ってくるんだ。渋られたとしても許可をもぎ取ってくるさ」


 実は今回、青年と交わした約束の報酬はフィオレ伯爵家が過去に起きた騒動の際に売却されたり、土地の権利を奪われたりと本来フィオレ家で管理していたはずの土地が、いくつか別の家や商家の手に渡った状態になっている。そのため現在フィオレ伯爵家が納めている土地は所々虫食い状態なのだ。

 しかし今回その内の一つが多少の手間で帰ってくるというのだから、現フィオレ伯爵としては願ったりかなったりといった状況なのだ。


「明日の朝にでも王宮へ行ってくる」

「そんなに早く行動するってことは本当に取り返したかったのね」

「ああ。それに」

「それに?」


 中途半端なところで言葉を区切ったフィオレ伯爵に女性が首を傾げながら言葉を返す。

 

「あの子が関わっているのなら私も手を貸すべきだろう?」

「あら。さっきは少し嫌そうだったのに」

「私の立場からすればおかしなことではないだろう?」

「ふふ。そうね」


 女性は優しい笑みを浮かべながら少しからかうようにそう言うと、フィオレ伯爵は恥ずかしがったのか女性から視線を少しそらした。





 ―――――

 次話は通常話になります。

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許嫁と出かけていたのだが崖から落とされ殺されかけた!? もうお前がどうなろうがどうでもいい! 俺は助けてくれたウンディーネと幸せに暮すんだ! にがりの少なかった豆腐 @Tofu-with-little-bittern

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