閑話 復讐

 

 カイラを寝取った男『アギー』視点の閑話になります。

 

 ―――――


 カイラの元婚約者のルークが生きていたと報告が入った。


 あの崖から落ちてまさか冗談では、という気持ちが強い。

 ライカル湖のあの崖は相当な高さなんだ。落ちたら命がないのが普通。


 そもそもあそこがデートスポットとして人気なのは、景色がいいという部分もあるわけだが、大部分がこの気持ちを断ったらどうなるかわかっているだろうな、という脅し……訂正、交渉に使う面も割とある。


 使うやつらの暗黙の了解であまりその意図が外に出ていないが、気づいているやつもそれなりにいる。まあ、実際そこで人を突き落とすような奴はカイラくらいなものだろうが。


 ルークに関しては相手がカイラとの婚約を破棄させないために出した替え玉ではないかと最初は疑った。

 しかし、どうにも本人らしい。


 しっかり本人であることの確認が済んでおり、貴族院側もそれを認めているようだ。

 まだ、ルークが生存していたという情報は表に出ていないようだが、貴族院に勤めている知り合いからの情報だ。およそ間違いはないだろう。


 ルークが生きていては計画に支障が出る。ようやく排除できたルークがカイラの婚約者として復帰してしまうのは避けねばならない。

 殺すのはさすがに無理だろう。一度カイラをけしかけて失敗している以上、警戒されているはずだ。それに警戒されているのであれば、ルーク側に弱みを出させるのは難しいだろう。

 なら、婚約破棄の理由をカイラ側に持たせればいい。ヘキスト家側が不利益を被るが、まあ仕方ないだろう。


 カイラはルークが戻ったという情報を得ていないのか、下手なことをしないようにと与えられていないのか、これまでと同じようにわがままに俺を誘ってあれこれしている。

 暢気なものだが、俺にとっては都合がいいのでそのわがままに付き合っておく。


 そんな感じでちらほらと行動に移していたのだが、あっさりルークとカイラの婚約は正式に破棄された。


 何事もなければそのまま婚約は維持されたままだったようだが、少し前俺とカイラの情事が見つかっていたらしく、そこを突かれて破棄に至ったようだ。


 ルークが生きていたという報告を聞いてから、動きがなかったことから何か探りを入れているのではと推測し、カイラのわがままに乗って何かと人目に付きやすいように行動していたのが功を奏したようだ。


 とりあえず、ルークとカイラの婚約が破棄されたことでヘキスト家があの商会に融資をする話は頓挫した。ざまぁみろ。これでさらに計画が進んだ。


 あともう少しだ。一時はどうなることかと思ったが、今の運は俺に向いているようだ。

 次も同じようにうまくいくとは思わないが、この勢いに乗って計画を進めていくことにしよう。




 これはあくまでも俺個人の復讐だ。


 関係者に媚びを売って、嫌なことも進んでやって、俺の家を追い込んだあいつらに目に物を見せるためのささやかな復讐だ。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る