カイラと対峙する
捜索隊
スゥを説得した後は直ぐに洞窟の外に運んでもらった。
湖の中をスゥに引っ張ってもらい移動している時はわからなかったが水面に上がると、太陽の位置からして今が昼であることがわかった。洞窟を出る前は朝方くらいの感覚だったので、時間感覚が狂っていることを再認識した。
そして、スゥにそのまま湖の岸まで運んでもらう。
「ぜたい、かえって来てね」
「ああ、必ず帰って来るから待っていてくれ。…ああ、それと安易に知らない人を寝床に連れて行かないようにな」
「? うん!」
スゥを誰かに取られたくないと言う俺の気持ちはおそらく伝わっていないだろう。たぶん俺の言ったことは守ってくれると思うが、多少の不安が残る。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「うん」
かなり後ろ髪を引かれるが、このままだとここから離れられない。そう判断して振り返りたい気持ちを押し殺して俺は森に向かって進んだ。
暫く森の中を歩いた。湖から上がってから日はまだそれほど傾いていない。
しかし、俺はあることに気付いた。このまま歩いて行けばおそらく森を抜けることは出来る。それは問題ない。
しかしだ。今の俺の状況を鑑みるとやや問題がある。それは崖から転げ落ち、スゥの治療を受ける際などの結果、俺の服装は現在上半身が裸だ。辛うじて下はズボンを履いているため、完全な変質者ではないが、普通の人が見れば変人に変わりはない。
このまま、人の居る所に向かっていいのか? 絶対に駄目と言うことは無いだろうが、あまり良くない気はする。
どうするかなぁ。まあ、悩んだところで着る物が出て来ることは無いから、このまま行くしかないのだけどな。
ん? なにか前から足音が聞こえて来るな。音からして複数? 俺が言うのも何だけど、何でこんな森の中に? 採集か狩猟でもしに来たのだろうか。
いや、待て。これは俺にとって僥倖とも言えることだ。もし、出会った人たちが服とまでは言わないが、タオルの一枚でも貸してくれたらズボンだけの状況は改善する。あわよくば一緒に移動してくれるなら町まで連れて行ってくれるかもしれない。
とは言え、最悪出会った人たちが犯罪者だったら殺される可能性もある。ここは慎重に行動しよう。
まずは、木の影に隠れて様子を見るか。
俺は聞こえて来る足音がどの方向からなのかを確認し、その足音の方向から把握しづらい位置の木の後ろに隠れた。
そして、足音が近くを通り過ぎたことを音で確認してから、その背後から足音の元を確認する。
あまり音を立てないように木の影から少しだけ頭を出して確認してみると、そこにはカヌーらしき物を担いだ5人組が居た。何故、森の奥にある湖でカヌーを使うのかがわからない。カヌーの練習なら一々この湖に運んでこなくとも、この辺りの町は近くには緩い流れの川があるところが大半なのだ。そこで練習をすればいいだけなのだが、何故ここなのだろう。
とにかく、ここに来ている理由はわからないが、少なくとも犯罪者ではなさそうなので、声を掛けてみよう。
「あのー」
「え? うおっ!?」
「あ! ちょ!?」
俺が声を掛けると一番後ろを歩いていた人物が驚きながらもこちらに気付いてくれた。しかし、その拍子に持っていたカヌーのバランスが崩れ、一緒に持っていた人物がいきなりカヌーが傾いたことで声を上げた。
それに気づいた他の人たちもこちらを向き、全員が俺のことを視界にとらえた。
「あぁ、すまない。驚かせてしまったな」
まさか、あんなに驚かれるとは思っていなかったから少々申し訳ない気持ちになる。
「いや、謝ってくれるならいいんだが。それに俺も必要以上に驚いてしまったからな」
「そう言ってくれると助かる」
寛容な人で助かった。人によっては難癖を付けて金を巻き上げようとする輩も居るからな、そういう人じゃなくて良かったよ。
「おい」
「なんだよ」
「こいつって……」
何やら先頭を歩いていた人が他の人と何かを話している。気にならない訳ではないが、聞くのは良くないと判断し、別の場所に気を逸らす。
「すまないが、貴方の所属と名前を教えて貰えないだろうか」
「え……あ、あぁ、なるほど。もしかして父さんが雇った捜索隊か?」
「そうだが、何となく当たりだとは思うが、間違いであっては困るので少なくとも名前の方を教えていただきたい」
何でカヌーとは思っていたが、なるほど。湖の中を捜索するための物か。ようやく納得出来た。
「ははは、わかった。俺の名前はルークだ。貴方たちが探しているやつと名前は一緒か?」
「……一緒だ。しかし、まさか生きているとは思わなかったな」
「まあそうだろうなぁ。普通だったら長期間見つからなかったら死んでいると思うよな」
「ええ」
それからいくつかやり取りをして、俺は捜索隊と一緒に街に向かうことになり、家に戻ることが出来た。
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