カイラの報告と疑惑
「ルークが私を庇って崖から落ちてしまったの! 直ぐに確認したのだけどもう見えなくて…」
カイラはルークを崖から蹴落としてからしばらく時間を置いてから帰宅の途に就いた。それまでの間はしっかりアギーと呼んでいた男とピクニックをしていたので、有言実行の上、抜け目ない女である。
そして、帰ってきてからその男を馬車から降ろし、焦ったような仕草をしながらルークの家に駆けこんだのだ。
「それであなた達はそのまま帰って来たと言うことですか!?」
「仕方ないじゃない! 連れて行った人数じゃあ探すのには時間が掛かりすぎるでしょう!」
確かに護衛として連れて行った人数では落ちた先が湖の中では捜索しきれない。しかし、何もせずに全員で戻ってきているのは、誰が見ても探す気が無いのは明確だ。
「そうですか。こちらで捜索隊を派遣しますので、場所を教えて下さい!」
まさか、許嫁と出かけた長男が行方不明になるとは想定していなかったルークの家族は、勢いよくカイラに問い詰める。
事故だったとしても、自分の家に報告もせずここに訪れ、捜索隊を出すような素振りを見せないカイラの態度にルークの家族は疑惑を持つ。それにやけに落ち着いている態度を見せているカイラの従者からも疑惑をより一層持たせた。
「あ、えっと。ごめんなさい。詳しい場所はわからないの、馬車の中から良さそうな場所を見かけてそこでピクニックをしていたから」
「は? 目的地も決めないまま誘ったのですか? 非常識な」
「いいでしょう!? 私はピクニックがしたかったのよ!」
「はぁ、わかりました。その辺りはこちらで調べます。なので、もう帰ってください」
「ええ」
カイラはあやふやで明確な情報を出さなかった上、最後にはあからさまにやり切った表情で返事をした。それを見たルークの家族はより一層カイラに疑惑を強めた。
カイラが居なくなってから、ルークの家族は急いで捜索隊を手配した。場所についてはまだ判明していないため、あくまで手配のみだが、それでも直ぐに集まる訳もなく、捜索開始までまだ時間は掛かるだろう。
「場所はどの辺りだ?」
「今朝馬車が向かった方角と、崖と言う部分からおそらく最近話題に上がっているデートスポットではないか? 確か崖の下に湖がある場所だったはずだ」
「なるほど。そこの可能性が高いな」
ルークの家はかなり裕福な商家だ。いくつもの店舗を持ち、広い範囲で商いをしている。それゆえ、店を継ぐ予定だった長男がいきなり居なくなると言うのは、今後の計画に膨大な影響を与える。
弟がいるから問題ないように思えるが、ルークと同様に昔から許嫁が決まっており婿に出る予定なのだ。こちらの許嫁は人格にも問題は無いため安心である。
「しかし、あの態度から推察するに事故ではなさそうだが」
「ああ、おそらくそうだろう。確か融資の契約ではこちらの都合で婚約が破棄された場合は融資を止めることが出来なくなるのだったか?」
「ああそうだ。十中八九それを狙っての今回の騒動だろう」
カイラの目論見は既に把握されていた。元よりルーク側の責任にして婚約を破棄してくる可能性は想定していた。しかし、殺してまでして来るとは思っていなかったため、完全に後手に回ってしまっている。
「このままだと、あちらの思うままだぞ。どうするんだ?」
「とりあえず、捜索願を出しておく。そうすれば、後3カ月は時間が稼げるはずだ」
この世界では行方不明になった場合、大体直ぐに死亡として扱われる。
行方不明となってしまえば、ルークとカイラの婚約は解消される。そうなれば婚約が無くなった原因がルーク側にあるとして、契約内容を実行しなければならない。
しかし、捜索願を出していれば、それが有効である3カ月間は死亡扱いにはならない。
これは連続で出すことが出来ないため、その期間にルークが生きていることを確認。もしくは死体を見つけ、外傷などを確認して事故ではないことを示さなければ、ルークの家が一方的に損をしてしまう契約を実行しなければならないのだ。
「そうだな。その間に見つかればいいのだが」
正直なところ、ルークの家族は生存が絶望的だと見ている。少なくとこカイラが隠すことなく報告に来ていることで、カイラの策が成功してしまったと判断しているからだ。そして、カイラもルークの死は絶対だと確信している。
これで、ルークが生きていると知った場合、カイラはどのような反応をするのかが見ものである。
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