話し合いの前のやり取り

 

「何故、ここに貴族院の者が居るのかね?」


 話し合いをするために用意した部屋に入ったカイラの父親が、先に部屋で待っていた人物を見て真っ先にそう不満を漏らした。


 先に部屋に入っていたのは我が家が依頼して呼んだ貴族院の観察員である。この人たちは基本的に貴族関係の話し合いの場に正式な記録係として呼ばれることが多い。そして今回の話し合いは貴族が関わる事なので呼んでいたのだ。

 貴族院へ正式な依頼をし、ここに呼ばれて来ているのでこの人物はこの話し合いの見届け人として、不正や公平性を欠く様な事が無いように見張るのが仕事となる。


 最初からカイラの家であるヘキスト子爵家は話しを有耶無耶にして責任逃れどころか、こちらに全責任を押し付けてくることは分かっていたので、それの抑止力となる事を期待して依頼を出しいていたのだが、カイラの父親の態度を見るにこの選択は正解だったとうだ。


「さて、では話し合いを始めましょう」

「いや、待て。この話はヘキスト家とそちらだけの話だ。私は他の者が居る状況で話をする気はない」

「何を仰るのです? 貴方は貴族でしょう? なら貴族が関わる話し合いには貴族院の方に同席していただいた方が宜しいかと思いますが?」

「何を言っておる。そもそも今日の話は我が娘とそちらの息子の婚約に関わる話だろう。なら貴族院の者を挟む必要は無いだろう」

「いえ、貴族の婚姻に関わる話ですからね。貴族の婚姻を記録、管理をしているのが貴族院である以上、必要が無いという事はないでしょう? ああ、もしかして貴族院の方がこの場にいらっしゃることで何か不都合でもあるのでしょうか?」

「ぐぬっ」


 どうにか貴族院から派遣されて来た人物を、この場から排除するように話を進めようとしていたカイラの父親は、父さんにそう言われて苦虫を噛み潰したような表情になった。


「いや、そもそもそちらの行方不明になった息子が見つかっただけで、婚約の契約はそのままのはずだ。なら貴族院の者を挟む必要は無いのではないかね?」

「ははは、何を言ってらっしゃる。こちらの息子が行方不明になって直ぐに婚約に付随する契約の申請を、ヘキスト家が独断で進めていること聞き及んでいます。なので必要ないという事は無いでしょう。それと、そこまで頑なに貴族院の方を排除したい姿勢を表していますと、不正をするつもりがある、と言っているようなものですよ? 少しは繕った方が宜しいかと思います」

「ちっ」


 少しでも話し合いを有利に進めたいカイラの父親は、それの障害と成り得る貴族院の者を出来る限り排除したいようだが、こちらとしてもそう来ることは十分に想定していた。なので、それに対応する返しを複数用意しており、現状、想定の範囲からは外れていないため、こちらの予定通り進んでいる。


「では、改めて話し合いを始めましょうか。とは言いましても、子爵様が言ったように私の息子との婚約の話だけですのでそれほど時間は掛かりますまい。それに子爵様は忙しいと仰られていたので早く話を終わらせた方が宜しいのでしょう?」

「ふんっ。ああ、そうだな」


 貴族院の者の排除は不可能だと判断したのか、カイラの父嫌は渋々ながら父さんの言葉に了承を示した。

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