第21話

 途中から湯築と武も来た。

「高取さんの従姉妹の方は何か特殊な能力があるのよね。地姫さんより凄いのかしら?

 あるいは同じ?」

 湯築が実力はあるのかと聞きたがっている。

「あまり、その人とは会ってないの。顔も覚えていない」

「よく知らないのはわかったよ」

 武は高取を気遣ったが、同時に高取の不思議な力に納得したようだ。

「そっか。どんな人かもわからない……。実力も……わからない。多分、思うんだけどその人の実力は相当なものだったりするわよね」


 湯築の懸念はあながち間違いではなさそうだ。

 何せ私でもまったく見えないのだ。

 私もあまり知らないのだが、高取家を少々調べてみなければ……。

 まあ、後にすぐにわかるであろうが。


「家では、父と母にもあまり会って話した時がないの」

 高取がぼそりと呟いた。


 ここはフロアである。

 高取はいつもみんながフロアの修練を終えると、モップで丁寧に掃除をするフローリングに座っていた。

 目の前に正座している地姫の目を見つめ、脳内イメージを広げていた。

 恐らく、落雷の初歩であろう。

 つまりは、射程距離である。

 落雷の落ちるイメージを鍛えているのだ。

 額に汗が滲みだした高取の周囲の空気が何やらブルブルと震えだしたようだ。

 瞬間、高取はキュッと目を閉じて、息を吐いた。

 それを見つめ地姫がこくりと頷いた。

「1キロに達しましたね。お見事です」

 地姫は高取に向かって初めて微笑んだ。

 ちなみに、地姫の轟雷の射程距離は100キロである。

 山をも通り越す脳内イメージは、尋常ではない。


 それから夕餉の時間であった。

 あの三人組が、台所に参加し様々な食材でカレーライスを武たちのために作ってくれていた。

「これはなんという料理ですか?」

 鬼姫が珍しい食べ物を見るかのように隣の河田に尋ねた。

 地姫と蓮姫と他の巫女たちも珍しそうにカレーライスを見つめている。

「カレーライスといいますよ。とにかく食べてみて下さいな」

 片岡が木を削って作った即席のスプーンを人数分用意し皆に配った。

 鬼姫たちはスプーンにも珍しげな目を向けている。

 早速、食べると、

「美味しい!」

「美味!」

「これは美味しいですわね!」

 カレーライスには鬼姫と蓮姫と地姫も満足していた。

 

 他の巫女も喜んでいる。

 武たちも久しぶりの洋食に嬉しがっていた。

「これから、和食だけじゃなく。色んな食べ物を用意しますね。たまには私たちの庶民的な料理もいいと思ったのですよ」

 美鈴がそう言ったが、彼女たちの心配りは見ていて心温まるものだった。

「明日はどんな料理がでてくるのかしら?」

 湯築の期待のこもった言葉に、片岡がニッコリ微笑んで、

「みんな食べたいと思うので、難しいですけどラーメンに挑戦しますね」

 それを聞いて、武たちは大喜びだったが。

 鬼姫たちは首をかしげた。

 食堂も賑やかになり、そして、温かい。武たちの旅は今のところ順調だ。




 一方。ここは現在の鳳翼学園の昼の12時30分頃。


 武たちが東京へと向かっている間に、事態は刻一刻と変わっていたようだ。

 鳳翼学園の周囲に巨大な渦潮が現れている。その渦潮からは、どう見ても1000歳は軽く超えている龍が数十体も昇って来ていた。 

 学園内の2年D組には、宮本博士が頭を抱えていた。

「早速、本格的な人払いか……」

「宮本博士。あの巨大な龍をどうしますか? 弾丸は効きません」

 田嶋が厳つい顔をこわばらせた。

「あの……装甲弾では、どうでしょう?」

 2年D組の窓の付近で皆、宮本博士たちと自衛隊が集まっていた。

 かなり細い研究員が言ったのだ。

「あるにはあります……けれども……有効かどうかは……」

 ハッとした田嶋はすぐに本部へと連絡を入れるために動いた。

 考えるより、まず行動である。

 

 晴れ渡った空の下。


 装甲弾と催涙弾の重装備の応援のヘリの大軍が鳳翼学園へ着く頃には、日本刀や槍を持った高校生や巫女たちが龍と果敢に戦っていた。空には大船が幾つも浮かび上がり。雨雲が所々、意志があるかのように漂っていた。


「武!」


 麻生が叫んだ。

 そう、武たちが龍と戦っていたのだ。

 龍の息の根を次々と止めている武たちに、鳳翼学園からは凄まじいまでの声援が送られている。

 それを見ていた卓登は歯ぎしりのし過ぎで真っ青な顔になっていた。当然、道という字が好きな卓登には羨ましくてしかたないのであろう。

 学園内の宮本博士や自衛隊は、信じられないものを見たかのような驚きの眼差しをしたが、ここぞとばかりに声援を送っていた。

 武が1000歳以上の龍を一刀両断にしていた。

 鬼姫は神鉄の刀で大津波がでるほどの横薙ぎをし、龍を数体始末した。海上を歩き。時には飛翔する武たちを目の当たりにして、鳳翼学園の生徒や生徒の父母たちの中には、夢を見ているのだろうかと目を擦るものもいた。


 虚船丸からも海上を歩ける巫女や大人たちが刀を振るう。

 まるで、戦であった。

 波を飛び越え、海面を走り、龍をはふるのである。

 湯築も一際長い槍で龍の心臓を穿ち、高取の落雷も龍を灰塵と化せるようになっていた。

 海の上での激戦の最中。

 武が麻生を探していた。

 その時、学園の二階の麻生と武は目が合った。

 二人はしばらくじっと見つめ合っていた。

 麻生がこくりと頷いた……。


 あの戦の後、地姫の提案で、虚船丸を幾つか鳳翼学園へ残すことにし、武たちは再び旅立った。

 鳳翼学園では大歓声の中。廊下の窓際で麻生と卓登が空を見上げていた。

 かれこれ武たちの戦いは一時間もの激戦であった。


 空は晴れ渡り、健やかな風の海には、龍の脅威も綺麗に退けられている。

「また、旅に出るって……」

「え? いつの間に話したんだ?」

 卓登はしきりに首を傾げている。

「なんとなくよ。さあ、2年A組へ行きましょ。空飛ぶ船から色んな人が来ている」

 麻生は再び、空を見上げてから2年A組の教室へと歩いて行った。 

 2年A組の教室のベランダの近くに、大波に揺れる虚船丸が浮かんでいる。

 先ほど戦いの渦中にいた一人の巫女と、武士の恰好をした大人の男二人が、大船からベランダへと梯子を使って降りて来た。

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