第4話
道という字が好きな卓登は、小学生の頃に酷いいじめを受けてから、合気道の達人へと昇りつめたのだ。
この理科室には、もう二人。麻生の友達がいた。
さっきまでいたが、今は教室へ戻ってしまった高取 里奈という名の女子だ。タロットカード占いが占い師顔負けの的中率の不思議な女で、全校生徒での成績が三番目と頭脳派なのだ。意外にも、おかっぱ頭の可愛い容姿だった。
ちなみに、武の成績は全校生徒で二番目である。
もう一人は、麻生の後ろで髪をかき上げている美人で、美貌では学校内で二番目と噂される人気者の湯築 沙羅である。運動神経に大変優れ。陸上県大会二年連続優勝者である。ここから見ても、茶色がかったボリュームのある髪が特徴的だ。
「麻生さん。私も食べ終わったから教室へ戻るわ。後で、体育館裏へ来て」
湯築は何か含みがあるが微笑みを絶やさず教室へと戻って行った。
麻生と武は弁当箱を取り換えると、教室へと廊下を歩きだす。理科室はいつもみんなで昼飯に使っていた。
「ねえ、武。雨がこれからも止まなかったら。どうする? フフ、私は船で武と一緒に無人島へ行きたい。ずっと、二人で暮らしましょう。何もないところがいいの。今生の別れも惜しまずに。二人だけで、日本を捨てても……そこで、幸せになりましょ」
麻生が俯き加減で話し出した言葉に、武はくしゃみをした。
「誰か噂しているな……。俺はそうだなー。案外、学校へ行っていると思うな。この学校って、柔道部の翔先生や数学の鈴木先生に、剣道の尾鍋先生とか、色々お世話になっているからね。あー! また噂している!」
武は頭を掻いては、のんきだが律儀なことを述べながら後ろを振り向いた。
武の後ろには、いつもいるのだ。
低学年の三人が……。
武自体名前はあまり覚えていないのだろうが、美鈴と河田と片岡である。
さすがに、気配を消したわけではないが、理科室にもいたのだ。
いつも武の後を追っている。
当然、三人は武のことが好きなのだろう。
今もひそひそと、武は剣道では宮本 武蔵と同じく日本で最強なのではなど、柔道ではオリンピックへ出場するだろう。東大へ進学するはずだ。数学者になって、ノーベル賞なりとるのだろうなどと、毎日のように噂をしているのだ。
ここから見ても、三人組は……実はそれぞれ可愛らしい容姿なのだが……いつもとある妄想に浸っていた。
ちょっとしたスキでもあれば、ラブレターなり特性お弁当なりと、執拗な横恋慕のような攻撃をし、なんとか武という名の美男子に付け入ろうと思っているのだろう。
けれども、恐らく無理だろう。
三人組には悪いのだが、私の知る限り麻生は武のただの幼馴染ではないようだ。
いわば夫婦であろう。
武に対しての憧れが日に日に強くなるのは私にもわかるのだが……。
教室はがらんどうとしていた。
生徒数はまばらだ。
休憩時間以外は皆暗いようだ。
武は席につく。
その隣の席に麻生が座ると、ちょうど担任の先生の本堂先生が教室へと入ってきた。
授業は意外にも厳しい。
数式が難解過ぎて、武と麻生以外は何度も先生へ質問をしていた。
ここは進学校の中でもトップクラスの精鋭教師が揃うところ。
また、例外もある高取と湯築は黙々と教科書と黒板を目で往復し、ノートにひたすら書き込んでいた。
二人とも、麻生への対抗意識と武への憧れがあるようだ。
皆、女子は狙っているのだろう。
武を……。
余談だが、本堂先生は茶道部の顧問でもあって、茶道部にも時々顔を出す麻生にとっては師範のような存在なのだろう。
黒板に向けられる麻生の目も何やら厳しいようだ。
日舞から三味線まで、母親からの厳しい稽古を受けている麻生は、こういう時には、鬼気迫る。穏やかな性格だが環境的に作られてしまった。麻生のもう一つの顔だ。
「麻生。悪いが今日も部活は休め。先生も実は学校へ通うのが大変なんだ……。でも、雨が止むことを祈っているよ。それと、勿論、麻生だけじゃなく。君たちの努力が実ることを先生は心の底からいつも祈っているんだよ」
教室から笑い声が鳴り響いた。
本堂先生は、厳しさと優しさを適度にブレンドするのが得意なのだろう。若く。背が低いが、ここから見ても、生徒思いのいい先生なのだから。
「はい。でも、先生。恐らく無理です。この雨って……原因が……」
麻生が不安を何も払拭しないで告げた。
「ああ……。確かニュースでは何かの惑星が近づいていて、世界規模の大気があっという間に大きく変化したとか……。地球は今、卵のようだって学者さんがいっていた。厚い雲によって全世界が覆われているんだよ。学校側でも、こんな時はどうしたらいいのかわからないのが現状なんだ。非常事態なのか、自然に身を任せるのか。判断するには、政府からの発表があるまでは、何もできないんだよ。残念だけど、今はどうすることもできないんだ」
そう。本堂先生の言う通りに、この半年間も振り続ける雨の原因は、一つの惑星が地球に近づいてきたことによるのだ。私の知っている限り。そこに竜宮城があるのだ。
実は竜宮城は、中国や日本の昔話による海の底ではなく。一つの惑星を統べ海に浮んでいたのだ。
浦島太郎は実在していた。
浦島太郎は、亀を救った後、亀がお礼をしたいと言い。渦潮を使い別の惑星にワープしていたのだ。私の言っていることは、誰も知らない昔話の裏の話だ。大昔から大勢の人々がとある事情で竜宮城へと行き来していた。当然、玉手箱の末路も皆同じなのだ。
浦島太郎は乙姫という地球外生命体と宴会を開き。食べ飲み。乙姫の情が移りそうな頃に、妻子持ちの彼は地球へと帰って行った。
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