第36話
ここから重要な事柄が多いので、みんなの話を進めていこう。
武に湯築に高取は基礎を習熟し続けていき。なんと自ら応用をしていたのだ。湯築は槍に宿らせた気を遥か遠くへ飛ばし、高取は轟雷を複数同時に三キロ先まで降らせるようになっていた。
竜宮城は総力戦のために力を温存しているのだろう。何か良からぬ動きはないに等しい。
おや、ここ数日間で効果が現れて来たようである。武自身の気が恐ろしく高まっていた。
そんなある日。
今は深夜である。
武はベッドの中で、隣に寝ている鬼姫をよそに一人呟いていた。
「俺にも龍に雷を落とせることってできるのだろうか?」
それから、武は高取と地姫に落雷の術の初歩の初歩を教わることになった。
時間も限られているので、落雷とまではいかないが、武は落雷を覚えた。
武が高取と地姫の目の前で正座している様は、見ていてこちらも微笑ましかった。
武は筋が大変良く。
僅か数日で得た術であった。
あくる日。
皆それぞれフロアを使わず。広い甲板での基礎の習熟をしていた。
鬼姫も蓮姫も光姫さえも、更に上を目指すかのように更なる鍛錬をしていた。
当然、四海竜王が目標のようだが。
皆、口には出さないが、タケルが目標なのであろう。
数多の虚船丸からも武士や巫女が度々、天鳥船丸へと訪れては稽古に励んでいた。武はそれでも周囲を気にせずに、ひたすら基礎の習熟をしている。
時折、高取と湯築と話しては、お互いの長所を取り入れようともし、武芸に励むのだ。
このままいけば、武はタケルにならなくてもめっぽう強いであろう。
他の大きな変化といえば、高取も湯築も武への好意をストレートに伝え表現するようになった。これには武も鬼姫でさえもいつもより寛容に接しているように見えるが、鬼姫は当然、内心はやきもちをやいているのだろう。
地姫の言った言葉が、私の胸に蘇った。
「これから皆の思慕を大切にせよ」と。
一方、ここは鳳翼学園。
今は深夜の二時である。
なにやら不穏な空気漂う学園を微細な渦潮が無数に囲んでいた。
「不吉な夜ですね……」
2年B組で寝ていた地姫がそう呟き目を覚ました。
すぐさま起き出し、隣の麻生を起こすと「急いで!」と二人は2年D組へと走った。
麻生の後ろには、当然事態に気が付いた卓登が寝ぼけ眼を擦って追いかけていた。
地姫と麻生、卓登が教室へ着くと、宮本博士たちは皆珍しくぐっすりと寝ていたようだ。研究施設と変わりない教室内で、寝袋で雑魚寝である。
「皆さま! 起きて下さいまし!」
地姫が叫ぶと同時に、すぐさまガシャンと窓が複数割れる音がした。
その音がしたのは、ここ鳳翼学園の階下であろう。
その直後に、ガラスを踏み鳴らす音が立て続けに聞こえてきた。
なんとも不気味な夜である。
気になった私は階下へと向かう途中、学園の西階段の方から。ぞろぞろと現れた武装した魚人たちに遭遇した。魚の顔をした魚人たちは皆、布でできた羽織だけを着た恰好だが、体を全て覆う薄い鱗に手には鋭利なモリを持っていた。
当然だが、私の存在は乙姫しか知らないのだ。
魚人たちの目的は何も知らないが、もはや何かの良からぬ策であろうということはわかった。
恐らくは策を練ったのは北龍であろう。
昔から何事も合理的であったような。
おお、そうか。
狙いは麻生か地姫であろう。
学園の二階からすぐさま銃撃戦の発砲音が連続して響いてきた。
田嶋がいち早く異変に気付いて、今は自衛隊が応戦しているのだろう。魚人は無数にいるようだ。それもそのはず渦潮から無尽蔵に何千と昇ってきているのであろう。
耳を澄ますと、雷の音も轟き。
学園は陰謀の闇に包まれようとしていた。
「はっ!」
2年D組には教室全体が発光したかのような光が襲った。
落雷が教室の窓から魚人目掛けて斜めに落ちた。
地姫が降らしたのだ。
教室のドアや壁を壊して何十人もの魚人たちが地姫と麻生たちを襲いだしている。
北龍の狙いは間違いなく。
この二人であろう。
地姫が珍しく焦り出していた。
それもそのはずである。
地姫の落雷や轟雷は空のある開けた場所でなければ本領を発揮できないのだ。
「地姫さん! もう少しだ! 何が起きているのかわからないが、応援の自衛隊たちが基地からこっちに向かっている!」
宮本博士や研究員たちは設備の奥で全員伏せていた。震える声で宮本博士に何かを話している研究員がいた。その研究員が無線で学園の危機を訓練所の自衛隊に知らせたのだろう。
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