第41話
これには東龍は大笑いをしているかのような顔である。極めて好戦的で危険な性格が表れていた。奥の北龍もでてきた。その龍は体長10メートルの白き龍である。
タケルは東龍に向かって、振りかぶる。だが、龍の鱗で神鉄の刀が折れた。再度、もう一つの神鉄の刀を抜くが。北龍がその隙を見逃さなかった。
北龍の渾身の体当たりである。
それをタケルは刀で防いだ。
「が!」
神鉄の刀が折れ曲がると同時に、バキッと骨の折れる音が無数に辺りに鳴り響いた。
勢い余って、タケルは遥か海の端まで吹っ飛んだ。
折れた刀は今のところ見当たらない。
どこかの海の底であろう。
タケルは大丈夫であろうか……?
吐血していたタケルに一隻の船が音もなく近づいて来た。
おや、虚船丸であった。五体の龍もタケルを襲ってくるが? その時、轟雷が同時に五体の龍を灰燼と化した。
「タケル様! お初にお目にかかります! 地姫と申します!」
地姫を乗せた虚船丸は遥々鳳翼学園から来たのであった。
この虚船丸には、あの三人組が乗っていた。どうやら、天鳥船丸に地姫が最初に訪れ、皆を驚かせたのだろう。
武士が幾人もタケルを虚船丸の甲板まで引き上げると、負傷しているタケルに美鈴と河田と片岡の三人組が一振りの刀を差し出した。
「はい! この刀は虚船丸の奥にあった蔵から持ち出しましたのです! 武様! 頑張ってくださいね! 一本しかなかったから……多分、強力な妖刀ですよ!」
「ガンバです!」
「もうひと踏ん張りです! 武様なら楽勝ッスね!」
「てっ、オイ!」
片岡が即座に河田にツッコミを入れた。
何を隠そう。その刀は雨の村雲の剣であった。
おや、私は気が付いた。
さすが、地姫も気が付いたようである。
このままでは……。
「タケル様は、左の手首。左胸のあばら骨。そして、左肩を複雑に骨折していますね。このままでは四海竜王には勝てないでしょう。ですから、これから私は全力でタケル様に助太刀をします」
そう。タケルは北龍の渾身の体当たりによって、大怪我をしていたのだ。
けれども、地姫の加勢と雨の村雲の剣を片手で振るえば、恐らくは……。
「わかった。では、地姫とやら。頼む!」
タケルは東龍と北龍に再び向き合った。甲板から飛翔し、地姫も広大な暗雲を天に発生させた。
白き雲もない。大海原を、その巨大な暗雲が覆う。
大海原の周囲を見ると、武たちの仲間が皆騒いでいた。
高取は空に向かって、喜び勇んだ。
「地姫さん! 私も負けてられない!」
高取は歯を食いしばって、地姫までとは言えないが、大きな暗雲を天に分散して発生させる。湯築と蓮姫はお互い頷き合うと、的確に龍の急所を貫いていった。
本気になった鬼姫の居合いのツバメ返しは、幾度も龍を両断し。
光姫は竜巻と雹の嵐を自在に操り、龍にとってはこれ以上ない脅威であろう。
おや、虚船丸の約千もの武士と巫女にも強力な加勢が来たようだ。
自衛隊である。
遥か遠くから数多の空母が見え、無数の戦闘機が飛んでくる。
「ハッ!」
タケルはまずは東龍の首を狙った。剣に宿る龍の気を放つと同時に、雨の村雲の剣で東龍の恐ろしく硬い鱗を斬り裂いた。
雨の村雲の剣の切れ味を知りたかったのだろう。
ところが、東龍もである。
とてつもない咆哮が辺りに鳴り響いた。
雨の村雲の剣は想像を遥かに超えている切れ味だったのだ。そのため東龍の胸元には真っ赤な肉にスッキリとした大きな切断面が見える。
致命傷を負った東龍の大口がタケルに迫った。
その時、東龍の頭上に三つの轟雷が束になって降り注いだ。
東龍はその直撃からくる強い衝撃で、もんどりうった。
慌てて北龍が助けに入るが、今度はタケルが剣に宿る気でツバメ返しをした。龍の気は大気と大海ごと北龍を深く斬り裂いた。
それと同時に大海が真っ二つに割れた。ここから遥か下の陸が見えていた。二体の巨大な龍が落ちていった。
瞬く間に、海が元通りに戻るが。
奈落の底の地へと激突した東龍と北龍は、負けじとその巨体を生かして、海中を暴れ回るように浮上してきた。北龍は大量の血を流しているが、タケルに再度突進しようとした。
重症を負った東龍も最後の力を振り絞って大口を開け、タケルに迫る。
だが、すぐに轟雷が二体の龍の頭上に直撃する。
タケルが刀を振るえば、同時に地姫の轟雷が降るのである。
これには、さすがに東龍も笑っていないようだ。
東龍も北龍も決死の覚悟でタケルと地姫と戦った。
しばらくは、剣と雷が二体の龍の血を多大に流させ、時には焼き払い、ようやくタケルは二体の龍に止めを刺していた。
辺りを見回すと、龍も魚人たちも逃げ去っていた。敵陣を綺麗に退いた大海原で鬼姫たちと武士たちと自衛隊は、傷つきながらもこの戦を見事に勝ち取っていた。
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