第16話
大船の下から鬼姫や蓮姫も登って来るのを見ているうちに、気付くといつの間にか梯子を登って来たのであろう地姫が武と話していた。
なんでも、これから先は太陽のない。暗黒の海である。皆の思慕を大切にせよと言っている。
地姫は珍しく真剣な顔であった。
「あー……困るんだけどなあ。まあ、いつものことだし。くしゃみが多くなるだけだと思っておくよ。おれは変わらないって麻生に約束したからな」
そんな武は終始はにかんでいた。当然、麻生がいるからだ。どこかの穴へ隠れたいほど照れくさいのだが、何かの必死さからか? それに、あまり気を抜いていないのでは?
「その意気です。あなたがモテるのは持って生まれた性分なのですから。気にしない方が非常に得なのです」
地姫は武の武運に対し、特殊な祝詞を唱えた。
数多の大船は大空を舞って、遥か彼方の暗き海へと向かって行った。
ここで、これから重要なので武たちの乗る大船をよく見てみることにする。
白い数多の帆を立て、広い操舵室があり。あの三人組はそれぞれ船室にいた。後は五十人の巫女たちがいる。一人部屋のような船室が幾つもあり、倉庫、食堂、台所、風呂場、医務室など、生活に必要な場所が幾つもある。それと、かなり広々とした甲板などもある。勿論、戦いに備えてであろう。
修練の間とまではいかないが、日々の修練ができる一際大きな船室? フロア? よくわからないがそれもあった。
大船の名は天鳥船丸である。武たちの船以外は全て虚船丸という。
なお、動力は私にもわからなかった。
恐らく、大自然に宿るマナという不思議なもので動いているのだろう。
船の外はまるで吹雪のような大粒の雨が荒れ狂っていた。
太陽は完全に覆われ、光源は落雷しかない暗き海である。
けれども、不思議と大船には雨や落雷が落ちてこないようだ。恐らくは地姫であろう。何か不思議な力を使っているのであろう。
なにやら、地姫と蓮姫と鬼姫が大船の甲板の端で話していた。
途中から高取も加わり、四人で竜宮城の正確な位置を特定できないかと話し合っていた。
「私にもよくわからないのです。竜宮城は一際大きな渦潮の中にあって、かなりの速さで移動をしています。恐らく、地球の中心を目指しているはずでしょう。乙姫の考えは、残念ですが私にもわからないのです」
地姫が言うには、竜宮城はもうすでに地球への侵略のため地球上で動き出しているとのことだった。
甲板を見渡すと、巫女がそれぞれ弓の訓練に精を出していた。
「あ、でも。地球の中心というより……日本の付近にまだいるわよ。竜宮城。さっき、占ったわ」
高取である。
さっき天鳥船丸の自分の船室で、一人占っているところを見ている。
タロットカード占いで、そこまでわかるとは……。
蓮姫も鬼姫も、更には地姫までもが驚いていた。
「不思議な方ですね。後でやり方を教えて下さいな」
さすがの地姫も感心したようだ。
きっと、僅かながらも西洋占術のタロットカードに興味を抱いたのだろう。
「それから、ここで注意。この先、竜宮城へ近づくにつれ龍が数段強くなってくるとでたわ」
「……そうですか」
高取の言葉に鬼姫が冷静に受け答えをしていた。
蓮姫は「あ、そうなの」とあまり動じなかった。
「どれくら強いのですか?」
「恐らく……今までにないほどです。龍は年を得るごとに強く賢くなるのです。今までの龍はまだ若い龍でした」
今度は、鬼姫の疑問に即座に地姫が答えた。
この天鳥船丸だけは雨が降っていなかったが、外は大荒れの雨風が巻き起こり、他の虚船丸の大人の男たちや巫女たちは、武たちのサポートに命懸けで打って出てくれているようだ。
「それから、不純異性交遊をしないため……鬼姫さん。毎夜、武に夜這いをかけないで」
高取の白々しい言葉に、鬼姫は顔を真っ赤にしている。
「すみません。もうしません!」
鬼姫は真っ先に甲板から船の中へと逃げて行った。
その後ろ姿はあまり懲りていないようでもある。
「気持ちはわかるわ。あたしも少し考えていたわ」
蓮姫がさりげなく言ったようだ。
「ええ、かっこいですものね」
地姫もまんざらでもなさそうだが、高取にとっては尚更そうであろう。高取はそんな二人を睨んでいた。
「ハイッ!」
ここは一際大きな船室? フロア? フロアと呼ぼう。殺風景な場所で気温も船内と変わらず。周囲には丸い窓が幾つもあるだけの広い空間だった。
そのフロアで、蓮姫と湯築が手合わせをしていた。
修練の間からめきめきと湯築は強くなっていたが、更に腕に磨きがかかっている。いつの間にそんなに強くなったのだろう?
蓮姫も真剣な顔を終始しているが、冷や汗は一切掻いていなかった。
天井の照明で照らされた二つの槍。
湯築の一際長い槍は、先端を厚いボールが付けてあり、蓮姫の槍には付いてはいない。
それでも、湯築の動きには、迷いもない。
湯築の振り上げた槍が、蓮姫の顔を霞めた。
次には、そのまま振り上げた槍が斜めに降りた。
蓮姫は自然な体捌きで、真横へ飛んだ。
槍は一本しかないのだ。
湯築の腹には、蓮姫の槍の反対側。
石突きが抉っていた。
「無事? 手加減はしているわ」
蓮姫が倒れた湯築に手を差し伸べると、苦悶の表情の湯築は手を取った。
「うっ」
時折、呻いては、蓮姫と一緒にこの船の医務室へと向かう。
武もそうであった。
鬼姫にはまったく敵わなかった。
当然だが、二人ともまったく実力をだしていないのだ。
恐らく、高取も面喰っているのだろう。
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