第38話

 一方、ここは南極である。

 

 私は広大な南極大陸の中央を目指した。数多の龍によって掘削された氷山が漂う海の底に、巨大な竜宮城は静かに佇んでいた。

 何やら訳も分からぬ汗が出るほどの不穏な空気を私は感じていた。

 私は乙姫から北龍に、麻生と地姫をこれ以上襲わせないようにと頼むことにしたのだ。武たちが安心して旅を続けられるようにするためである。

 恐らく、北龍は戦を有効に進めることしか考えていないのであろうが、やはりここは説得をするしかないのではなかろうか。

 私は影武者である乙姫が来るのを自室で待っていた。

 うら若き少年たちは、せっせと部屋の掃除に励んでいた。

 ほどなくして、影武者が現れた。

 重要な会議に会議と疲れ顔をしているが。

 影武者の深い憂いを含んだ瞳を私は見逃さなかった。

 私は薄々感づいてしまった。

 影武者も私の考えを汲んでいるようだ。


「姫様。申し訳ございませんが、麻生と地姫という女子学生と巫女を襲うよう命じたのは、他でもない私なのです」

「なんと……」

「もう、こちらもなりふり構ってはいられないのです。本星の水が……全てなくなりました……」


 きっぱりと言う影武者の言葉に私は絶句した。

 周囲のうら若い少年たちも私の姿と存在自体も知らないが、宙を見つめて話す影武者の言葉に、驚きのあまり腰を抜かしてぶるぶると震えだした。

 もはや本星では生きとし生けるものは、皆間違いなく死ぬであろう。

「もはやこちらは失うものは何もありません。武たちを退けるためならなんでも致しましょう。四海竜王はもう出払っています。地球の全ての陸は溶けた南極の氷塊によって水に満たされるでしょう。……乙姫様……もうこうなっては、とても申し訳なく思いますが、これでこの星は死に絶えます。けれども、変わりに本星が生きるのです。どうかよしなに……」

「……」

 だが、私には浦島太郎の顔もよぎった。

「まだだ……」

「?」

 憂いの色濃く現れていた影武者は首をかしげた。


「地球にはタケルがいる……」

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