０或る台所のことを、わたしはよく憶えている。

１「蝶はムネを潰す！」 少年は確かにそう云った。

２夏の思い出を語ることは難しい。それはしばしば独りよがりに

３咲良の瞳に映る世界と、わたしの世界とは随分ちがう。

４昼を過ぎるとわたしは、伯母の家の外のブロック塀に

５もうすぐ八月がやってくる。 夏の物語がわたしの掌にのっている。

６「せんせい下駄なんて履いてるの」

７圖書室は靑い森でした。 もう日が落ちるのが早いので、

８ 「あ、にゃんしーだ」 草野くんが云った。

９ 瞼の裏の、青い空。 電灯を消してから何分が経っただろう。

10　あとでセナちゃんから聴いた諸事情とは、ａ……

11　夢を見た。 地上三メートルくらいの高度で……

12　わたしは線路を歩いていた。両脇の金網の向こうに……

13　水のなかの思いで。わたしたちはふたりとも、……

14　咲実が死んでいるのが見つかったのは、

15　──何、してるの、──砂、見てる。

16 ただいまサクちゃん。咲実の声は細くて、

17 わたしたちは夏休みを母方の祖母の家で

18 昔のことだ。田舎の祖母の家から、少し奥へ

19「今日はね、ジグソーパズルをしたの」

20 机に向かって仕事をしていると、絨毯を踏むやわらかな

21 また草野くんと逢った。先日のことを心配してくれた通話で

22 記憶のなかの台所。どうしてあの家はあんなに

23 それから毎日、わたしたちは抱き合い、

24 「サクちゃん、アルコール中毒になりたいの？」午前三時、

25 スニーカに砂が付くのも構わずに水際をゆっくりと

26 咲実が髪を切りたいと云い出し、わたしが

27 目が覚めたらもう夕方だった。

28 十代後半から幻覚とせん妄の発作に苦しむようになった咲実の視界を、

30 「お姉さんにも、会いたかったよ」

31 実家は霊鑑寺の近くにあって、

32 初めてわたしの部屋に来た草野くんは

 202X.08　──作文