27 目が覚めたらもう夕方だった。


 目が覚めたらもう夕方だった。今日は夏休み最後の日だ。すっきりしたあたまで思った。とってもよく眠れた。ここ数ヶ月無いくらいに。どうしてだか思い出せないけれど、もう大丈夫なんだ、という気がした。

「サクちゃん、起きた?」

 ソファでごろごろしていた咲実が身を起こした。キャミソールに白い脚が出ているショートパンツ。綺麗に刈られたばかりのショートカットが新鮮だ。

「蜜白玉作ったよ。あとで一緒に食べよう。シャワー浴びてきたら?」

 咲実は立ち上がって冷蔵庫を覗いて確かめている。寝汗をかいていたわたしは、そうするわ、と答えた。

「今夜は送り火だね」

 

 ベランダからは、左大文字と舟形が見える。わたしたちは順にシャワーを浴びて、ベランダの近くに座り込んだ。午後八時過ぎから、山に火が灯りはじめる。左大文字の火がすべて 消えるまで、わたしたちは並んで送り火を眺め、それから冷房を効かせた部屋に入って、ゆっくりと蜜白玉を味わった。

「今年の夏も楽しかったね」

 咲実が云った。わたしは蜜白玉をスプーンで口に運びながら頷いた。白玉と寒天に黒蜜が掛かっていて、よく冷えていて美味しい。咲実は毎年一度だけこれを作ってくれる。特に何かしたわけではないけれど、今年も楽しかったね、という云いたい気分だった。

「サクちゃん元気でね」

 咲実がふわりと微笑む。俯くと咲実のつま先の、水色のペディキュアが見えた。

「本当に、楽しかった。ありがとう」

 咲実がもう一度云い、わたしたちは互いの肩にもたれて、ベランダから夜空を見上げた。それから隣に目を戻すと、咲実はもう、いない。

 手付かずの蜜白玉がガラスの皿のなかで、仄かに光っている。

 帰っていった。

 いってしまった。

 この世のものでない雪のなか、こちらへ帰ってくる咲実。

 そして蜜白玉は、咲実が向こうへ帰る日に必ず作るものだった。

 

 

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