12 わたしは線路を歩いていた。両脇の金網の向こうに……
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わたしは線路を歩いていた。両脇の金網の向こうに広がるアスファルトの道路が融けそうに暑い。小さな布鞄を肩から掛けて、わたしは何かから逃亡している。夏服から露出した腕や肩を、じりじりと太陽が焦がした。線路の端で、露草も渇いている。
轟音をとどろかせ、機関車が現れる。線路の端に立ってやり過ごす。また歩く。
煉瓦と土でできたトンネルが現れる。上部に記された名前は風化していて読めない。なかは暗かったが、そう長くはなかった。微かな湿っぽい黴臭さが鼻をつく。くっきりと半円形に、出口の明かりが切り取られている。早足に抜けた。
トンネルを出ると、短い草の生えている場所に入る。太陽の光はさっきより弱まり、靴の下にはふかふかとやわらかな草と苔の感触がある。白や黄色の小花が咲き乱れる様は美しく、けれどもただならぬ気配を感じる。この世のものではない感じ。
進みゆく内に、沸き水に出会う。だいぶ肌寒い。その澄んだ水を覗き込む。
冷たい水のなかの太陽と青い空。
やがて水面に浮かび上がる少女の顔。
わたしの顔ではない。
咲実の白い小さな顔が水の底からわたしを見上げている。
わたしの脳裏に、咲実の翳りゆく瞳がフラッシュバックし、視線に堪えられなくなって、泉に手を入れてその像を乱す。水は、手が凍りそうなほどに冷たくわたしの手を刺す。
どんどん寒くなってくる。冷たい風が強く吹く。雪が降り出す。
咲実の顔は、もう水の下に消えてしまった。わたしはその場に取り残され、悔やむ。雪が激しく舞う。
咲実はもう、泉下のひと。
水は、冷たい。
夢のなかでさえも。
目が覚めてから、あの台所の光景が思い出されてならなかった。
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