気が済んだ叔母は王子と婚約する

「ギルベルト…生きているか?」

 と地を這いながら魔王様の息子…第三王子のフーベルト様が聞く。


 夜明けまで後どのくらいだろう。

 俺は灰になるのか?


「生きておりますよ。こんなのでも吸血鬼ですからね…」


「そうか…俺も背骨さえ折れてなければ助けれるんだが、情けなくてすまん!」

 しかしもっと情けない奴が側で同じように串刺しになり


「助けてくれ!レナータ!!レナータ!!灰になるのは嫌だ!愛してる!許してくれ!!ください!!」

 と泣き喚く。煩いなあ。


 すると遠くの方から影が見えた。


「エミ叔母さん!?タカエ?お祖母様?」

 叔母さんに抱えられてきたタカエは地面に降りると駆け寄った!!


「きゃあ!!お化け屋敷の串刺し人形みたいになってる!ギルベルトさん!」

 と言った。


「すまない…こんな…」

 情けない所を…。

 お祖母様が木の杭のような枝を引き抜きようやく俺は地面に降りた。

 タカエが手を添えて俺の傷を塞いでいく。


「タカエ…俺は勝手に治るから平気…それよりも殿下を!背骨が折れている。あいつにやられた」

 とエッカルトを見る。奴は暴れながら


「エミーリア!僕も早く助けてくれ!!」

 とすがった。

 エミ叔母さんはそれにキレてバシンとエッカルトの頬を叩いた。


「助けてくれ?よくもまぁどの口がそう言うの?いつまでも甥が帰ってこないと思ったら。森の入り口の方でホビット達に聞いたのよ。エッカルト様…貴方私とエルフの女と重婚してたのね?驚いたわよ。そして冷めたわ。


 泣いて過ごした私はなんだったのとか、ただの浮気ならまだ許せたかもしれないけどもう相手には子供もいるらしいじゃない!?幸せに暮らしてるそうじゃないの?」

 と今度は股間を蹴り上げた。


「アウっ!」

 とエッカルトは泣いた。

 タカエは王子の手当ても始めた。


「助けて欲しかったら私と離縁して欲しいとお願いしなさいよ!証書も持ってきたわ!血判して!」

 と羊皮紙を取り出す叔母さん。密かに持っていたのだろう。


「く…そ女め!後でうちの借金は返済してもらうからな!!」

 とエッカルトは串刺しのまま悪態をつき


「離縁してください!エミーリアさん!!」

 と憎々しげに言い、血判を押した。

 叔母さんはパキンと木の杭の枝を壊した。

 そして


「とっとと!消えろ!このクズ!!」

 と叫び、腹の風穴を押さえながらヨロヨロとエッカルトはレナータの家の方に歩いて行く。

 叔母さんは静かにそれを見届けた。


 傷が治ったフーベルト王子は叔母さんに駆け寄る。


「大丈夫ですか?美しい人!」


「ふふふ、エミーリアよ…もうブライトクロイツの名は捨てたわ…。殿下、私のようなおばさんでもよろしければお嫁に貰って…」

 と言うより早くフーベルト王子は叔母さんをぎゅうと抱きしめて


「もちろんです!エミーリア!!私と結婚しましょう!!」

 と笑った。叔母さんも笑い二人は幸せそうだ。


「人騒がせな!ほら、エミーリアもギルも早く帰るよ!夜明けまで少しだ!灰になっちまうよ!」

 とお祖母様が言い、俺はタカエを抱えて慌てて飛んだ!叔母さんはなんとフーベルト王子の背中に乗っている!!嘘だろ!!?


「あらぁ!!!楽しいわこれ!私牛に乗るなんて初めてよ!!きゃはは!」

 とはしゃいでおる!!

 いや殿下は牛じゃなくベヒーモスという立派な魔獣で!!

 しかし王子は


「喜んでもらえるならいつでも背に乗せましょうぞ!美しい私の愛しきエミーリア!!」

 と何か嬉しそうだしいいか。


「わあ…良かったですねえ!皆仲良しで!!」

 とタカエも笑顔だし…まぁいいか。タカエが笑顔なんだからいいんだ!!と言い聞かせた。


 ギリギリセーフで屋敷に着いてなんとか朝陽を避けられた。フランツが泣きながら駆け寄ってきた!


「わぁっ!兄上!!灰になっちゃうかと思ったよ!!帰りが遅くて!!ううっ!!」


「おおフランツ!俺の心配を!ありがとう!兄様は大丈夫だからもう寝よう!」


「うん…兄上服がボロボロですね。流石エッカルトさんだ…」


「……俺が弱いみたいなん言うな!!」

 と言うと横から王子が余計な一言を言う。


「そうそう、口だけは物凄くかっこいい事言ってたぞ?」

 と懐から何か取り出しカチリと押した。


『………舐めんじゃねぇべ!おっさん!家族を泣かせた罪は償ってもらうべ!!あんな…居候の叔母さんでも…ヴィンター家の家族だべ!!


 あの涙だけは!嘘なんかじゃねぇんだ!!』

 と王子がいつの間にか隠し持っていたボイスコピーする魔道具を取り出して俺の恥ずかしい台詞が響いた!!


 皆に聞かせたもんだから俺は死ぬほど恥ずかしくなった!


「ギル!ありがとうね!私の為に!」


「なっ!!そんなんじゃねぇべ!別に!あいつがムカついただけだべ!」

 タカエもニコニコ笑い、夜が明けようやく皆お休みと部屋に戻った。


 俺は部屋に戻りボロボロの服を脱いだ。

 あーあ…。服なんかに金をかけるのもったいないなぁ。このレベルならもう雑巾にして再利用するしかない!


 王子が借金の肩代わりしてくれると言うので少しは助かったけど…王家にも迷惑をかけてしまった!!しかもあの叔母さんと結婚となれば持参金はいらないと言われても流石に魔王様の息子の結婚式に参列しないわけにはならず親族としてそれなりに全員分の衣装代やらがかかりやばい!計算し出すと寝れなくなる!棺桶の中でぐるぐると目を回して眠った。


 *

 次の夜…俺はタカエの作ったジャージを着て過ごした。


 叔母さんと王子はラブラブだった。サオリとモーリッツもラブラブで父上と母上も仲がいい。

 タカエは相変わらずニコニコと家事をしたりフランツに文字を教えたりしていた。


 レナータとエッカルトがその後どうなったかはフランツが妖精族の友達から聞いて知った。そのままレナータと生活を続けてるらしい。結局叔母さんのことは1ミリだって想っていなかったんだな。よく考えたら望まない結婚を押し付けられた被害者はエッカルトだったかもしれないが…まぁ済んだことだ。





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