帰る方法が見つかった
賑やかな馬鹿騒ぎ…ではなく夜会の最中に俺たち家族とサオリとモーリッツを連れて別室に待つように言われた。
「ふう…タカエ疲れたろう?」
と聞くと
「疲れたと言うか…ただ驚いて…」
と言った。人間には刺激が強かったかな。
「ヨダレを垂らして人間を見る魔族達が恐ろしい。杖さえ無ければ俺は食われてしまう。これからはやはり変装して生きなければ…」
とモーリッツはサオリと震えた。
そこへ魔王様に王妃様が大きな本を抱えて入ってきた。家族達は膝まづいた。
「頭を上げよ。ヴィンター伯爵家の者ども」
と魔王様が低い声でいい、怖い顔でにらむ。ひい!
「………」
王妃様は本を置きページを開いた。
そして魔王様は通訳した。
何で通訳できるのか全く判らないが。
「スザンネはこう言っておる。この本はおよそ500年前に偉大なる大魔女が残した予言の書であると」
「予言の書…」
「異世界から来たりし3人の聖女現れる時…異界へと通じる扉が500年ぶりに開くであろうと」
「異界へと通じる扉?それは…」
タカエ達の世界に通じている扉があるのか?
「500年ぶりってことは前の聖女さんもその頃この世界に来たのかな?」
とフランツが疑問に思う。
王妃様がフランツを見てにこりと笑んだのでそうだろう。いや、喋ろうよ!
「その扉は妖精族の妖精の女王…ティターニアのババアが守っているとな」
「え、ティターニア…妖精の女王様が?」
「そう、あのババアはうちの、スザンネと仲が超絶に悪いんだ…。だからお前たち異世界人が我等魔族と仲が良いと知れたら絶対にその扉を開けてはくれまい…」
と魔王様が言い、エミ叔母さんが
「確か…妖精族は人間には結構気を許してるのよね。金の為なら何でもするドワーフ族を除いては」
と言う。
「そうだ。妖精族は昔から我等魔族が基本汚いとか醜いとか花を踏み潰して歩くからとかとりかく毛嫌いしておる。
例えれば我等のことは馬の糞レベルだと思っている。とにかく綺麗好きな連中だ。美しいモノに魅かれるから…魔族の中でも綺麗好きな吸血鬼一族はマシなはずだ」
父上は
「ともかくティターニア様との交渉が上手く行けば何とかタカエは帰れるということですかな?」
と聞くと王妃様はページをめくった。通訳の魔王は…
「ふむ…500年前に…魔族と恋に堕ちた聖女がいたそうだ。その魔族は一緒に扉の中へ入ろうとしたが…。無理だったようだ。結局聖女だけが帰ってしまい…その後魔族の男は死んだようだ…」
と悲しい事実を言われた。
「………住む世界が違うのだものね。残念ね。タカエの住んでる所は面白そうなのにね」
と母上が言うとお祖母様は
「観光はできそうにないね…」
と言いタカエを撫でた。
タカエは泣きそうだった。
「まぁ…妖精の女王との話し合いが先だ。素直に我等と話をしてくれるとは限らん。そうなるとその人間も元の国に帰れぬだろう…」
それは可哀想だ。タカエはきっと帰りたいだろう。向こうの家族…タカエの両親も心配している。半年近く経ったけど…。
その日は魔王城に泊まらせていただくことになり俺たちは地下へと降りた。妖精の女王ティターニアにまずは書状を送り、面会の機会を得なければならないと魔王様が言っていた。
「……だが、書状すらも読まない可能性がある」
とも言っていた。どんだけ魔族嫌いなんだ。……ふとエッカルトおじさんを思い出したが…あの人には頼めないだろう。エミ叔母さんの件でも険悪になったし、俺たちに協力する筈はない。
こっちも会いたくないし。
離縁したからもう他人だ。
家族達は夜明けが近く地下室の客室に入って眠る。吸血鬼用にちゃんと棺桶ベッドが用意されている。うちのより豪華な棺桶だな。王家凄い!
「兄上…僕が頼んでみようかな?ほら…妖精族に友達がいると言ったでしょう?…」
とフランツが言う。
「そう言えばそんなこと言ってたなフランツ」
「うん…まだ、僕は子供だし大人しい美少年だから…それでも大人の妖精族の人なんかには嫌な顔されるけど…悲しいけどタカエが帰りたいなら僕は協力するよ!友達になんとか女王様と話せるように頼むよ」
とフランツが頼もしく言う。
「頼んだぞフランツ」
と頭を撫でてやるとフランツは欠伸をして地下室に入った。
タカエも欠伸をしている。朝が近いと言うのに。
「タカエとりあえずお休み…。俺も少し眠るよ。タカエも眠ってくれ」
タカエにも個室で寝れるように整えられていた。
「私も昨日はあまり眠れなかったので少し横になります」
「うん…帰れるといいな…ちゃんとティターニア様に帰れるよう俺は頑張って頭を下げるよ」
と言うとタカエはボロボロと泣いた。
「タカエ…君は帰るんだ」
とよしよしと背中をさすってやる。
タカエがキュウとシャツを掴みこちらを見た。
「帰りたくなくなってきました…」
とタカエは涙ぐむ。
「それはダメだ。タカエを心配してる家族がいる」
「でも…ギルベルトさんともう会えないのが辛くて」
そんなの俺だって辛い。
「帰る方法が見つかったのにそんなことを言うなタカエ。俺は…吸血鬼だから例えタカエの世界に行っても直ぐ死ぬぞ?夜はともかくタカエの国に地下室は無いんだろう?
タカエはうっ…という顔になる。以前タカエが話していたことだ。タカエの住むニホンには地下室を持てる家は少ない。一部の金持ちならともかくと。だから俺たちは夜はともかく長居する事は不可能だ。
「……お休みなさい…」
チュッと頰にキスして俺も返してタカエは自分の部屋へと入った。俺は棺桶に寝転がった。
もうすぐタカエとお別れかもしれない。ティターニア様を説得してなんとか扉を開けさせても
どの道俺はタカエの世界では生きていけないのが判っているし、そもそも400年前の魔族すら通れなかった扉を俺が潜れるとは限らない。潜った先の世界が昼間だったら一瞬で灰確定!
するとコンコンと棺桶の蓋をノックされ俺は開けてみるとタカエがネグリジェ姿で現れた。
王家に貸してもらったのか。
「タカエどうした?部屋で休めないのか?」
まさか、王家に限ってベッドが硬いわけないし最高級のフカフカ毛布くらいはあるだろう。タカエは客なのだから。
「私もここで寝ても良いですか?これからは帰るまではずっと」
と言ったので俺はポカンとした。
「え?」
いやいや…。
「タカエは人間だから昼は普通に起きているしか無いんだぞ?何も合わせなくても」
「私が朝寝ないと夜起きてギルベルトさんとの時間が減ってしまいます!少しでも長く一緒にいたいので…ギルベルトさんが嫌なら無理にとは」
俺はまた赤くなる。いや、無理なわけなかっぺ!そんなの!
「タカエ…嬉しい。ほんと君は可愛いな」
と言うとタカエも照れて王家の少し広い棺桶の隣に滑り込む。
「本当!ギルベルトさんの棺桶よりこっちのが余裕で広いですね。棺桶が広いというのも変な話だけど」
とクスリと笑う。
「むっ、俺のが狭くて悪かったな!」
「ごめんなさい。でも狭いのも好きですよ。ここは広過ぎてあまりくっ付けないけど…」
とタカエは横を向いた。
えーと、これは…また誘われているのかな?
どうする!?手を出してもいいのかな?いや、流石に王家の棺桶だし!
俺がグルグル悩んでるとタカエは
ついに手を伸ばしてまたしがみ付いた。今度は少し笑い俺の胸の中で目を閉じた。
俺も…タカエと同じ人間だったら良かったのかな……そんなことを初めて思った。人間になりたいと思う魔族なんて頭がおかしく見られるだろうな。400年前の魔族の男ももしかしたらそう思ったかもな。
眠気がきて俺もタカエを抱きしめて眠った。
翌夜また家族に
『まだ童貞なのか!?』
となんか怒られたんだが…。なんでだよ!
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