生贄と三人の聖女

 その日は昼だと言うのに空が真っ暗で太陽は完全に隠れていた。


「ど、どうなってるんだ?」

 恐る恐る外を覗く俺たち。


「これは月食だわ…」

 とタカエが言い、説明を聞くと吸血鬼一家の俺たちは青くなって外へ出るのを辞めた。


 月食とか言うのは終わると太陽は戻るらしい。


「皆さん…地下の扉へ行き、オフェーリアをぶち込みます」

 とスザンネ王妃様がぐったりした元妖精女王オフェーリアを魔族の兵士に連れて行かせた。羽は力が出せぬように千切れていた。


「助けて!!誰か!嫌よ!生贄なんて!私は妖精女王なのよ!?人間でないとダメなのよ!ねぇ、チェルシー!」


 現妖精女王ティターニアのチェルシーはこの1週間でだいぶマシにはなっていた。栄養をきちんととり、これまでのオフェーリアの悪政を見直したりまだやることはたくさんありそうだ。


「今更母親面をされましても知りませんわ。私はもう貴方の娘ではありません。オフェーリアよ。刑を執行します!」

 と冷たく言い放つ。

 俺たちは地下へ向かった。


 既に骨からまた思念体に戻ったヘルロフが待っていた。真剣な顔をしているのでアユカが


「あら、良い男じゃない!!ねぇお兄さん私と良いことしない?」

 とこの後に及んで声をかけていたが完全無視のヘルロフは


『扉の様子が…400年前と同じようになってきた。交代の時間だ!』

 と言う。魔王様が


「オフェーリアを扉へ!」

 と命じ連れて行かれる。最期まで抵抗しているオフェーリアだが…扉が一人でに開きそこへ無理矢理押し込まれた。


「ぎゃあああああやめろ!やめろ!やめろおおおお!」


 ヘルロフは叫んだ。


『ミナミ!!いるのか!?ミナミ!!』

 そう叫ぶと微かに声が聞こえてきた。ドロりとした光の塊が近付いて人形になっていきついに人間の女に変わる。黒髪で確かにタカエ達と同じ世界の人間だと感じた。少し透けてゴーストみたいだが。


『ミナミ!!戻ってきた!!ミナミ!!』


『ヘルロフ!!貴方なの?』

 二人は抱き合った。


『400年待ったよ…」


『ヘルロフ…ありがとう。待っていてくれて…私もようやく役目を終えることができる…。でも放り込まれたのは聖女じゃないのね…。ならば少し荒れそう…』

 と言うからどう言うことかと聞くと世界を400年守ってきたミナミは…


『400年間…皆さんを…この世界を浄化してきました。聖女にはその力がここに来た時から備わっているの。


 それが役割。私は400年…この世界の悪い所を浄化し続けた』

 すると大地が揺れ始めた!


「うわぁ!皆何かに捕まるんだ!」

 とフーベルト王子が指示して揺れが収まるのを待つ。

 しばらくしてうやく収まると扉が空いてベッと吐き出されるようにオフェーリアが半分ドロドロになり戻ってきた。言葉を発せなくなり廃人のようになっていた。


『やはり…妖精女王の生贄ではダメみたい…。貴方達じゃないと!』

 とアユカやタカエやサオリ達をみる。

 そんな!

 モーリッツも密かに付いてきた勇者達も嫌な顔をした。


「やっぱり…私達がやらないとダメなんだ…」

 と呟き人前だと言うのに俺の元に来たタカエは


「ごめんなさい!」

 と頭を下げてしがみつき熱いキスをして離れた。サオリも同様にモーリッツにキスをして離れる。アユカは逃げ出そうとしていたがサオリが捕まえ引きづり


「では…皆さん!お世話になりました!」

 とタカエは笑う。


 は?


 ちょっと待ってくれ!


「待て!何がだ!?サオリ!俺たちは一緒に結婚するんだ!」

 とモーリッツも青ざめる。勇者達も引き止めた。


「アユカを離せ!!まだ俺たちが見守ってやらないと!」

 と言う。

 タカエは


「初めから決めていたの。もしダメだったら私達の誰かが生贄になるつもりだったけど、3人とも必要だとは思わなかった。…私達がこの世界に呼ばれたのは役目を引き継ぐこと。だって聖女だもんね」

 と言うと皆泣き始めた。

 フランツは


「そんな!兄上とタカエが幸せになれると思ったのに!!酷いよ!!兄上何とか言ってよ!」

 と俺の身体を揺らすフランツ。


「アユカだけで良かったんだけどねぇ。妖精女王も役に立たなかったかい」

 とお祖母様が言う。俺はただ立ち尽くすことしか出来ない。


「いやっ!私はうちに帰るの!離してよ!世界の一部になるなんてごめんよ!!400年も!!」

 と暴れるがサオリが


「仕方ないでしょ!帰れないしリッちゃん達の世界を壊すわけには行かないもの」

 モーリッツは膝から崩れ落ち泣いた。俺はジッとタカエの目を見つめてタカエも見つめていた。


 何となく解っていた。

 タカエはもしかしたらこういうことになったら自ら命でも何でも差し出すだろうと。


 しかしそこでヘルロフが再び叫んだ。


『そんなことはさせない!もう誰かが俺たちのように悲しむのはたくさんだ!ミナミ何か他に方法は無いのか?』


『3人…何故今回3人も呼ばれたのか私は疑問だわ。聖女なら一人で足りる役目なのに…………もしかして3人が力を合わせて浄化したら…400年も待たずに済むのかも。もっと短い時間で…』

 タカエは


「可能性があるならやってみようよ!!皆手を繋ごう!そして祈ろう!ほら!安優香!」

 タカエはアユカの手を取った。


「うう!嫌!私は祈らない!こんな世界どうだっていい!皆消えちゃえばいい!どの道私のいた世界じゃないもん!」

 と言うとタカエはアユカを引っ叩き王妃様はそれに拍手していた。


「安優香!正直言うとあんたみたいなビッチが聖女とか似合わないけど与えられたことも出来ないなんてほんと大したことないよね!」


「何よ!貴恵のくせにー!」


「うるさい!ここでは対等よっ!あんたも私も!ふざけないでよね!いい加減にしてよ安優香!もうあんた金持ちでも何でもないの!私達はようやく同じラインに立ってるの!まだ判らないの?友達になってあげるって言ってるのよ!」

 と貴恵は手を差し出す。

 それにアユカはボロリと泣き出した。泣きながら手を出して


「ごめん貴恵…沙織…私…バカだよね」

 サオリも


「ようやく解ったの?ならマシだね。さぁ、祈ろう!もう時間が無いみたいだし」

 扉は閉まりかけていて3人は走りタカエは途中で振り向いて


「では!行ってきます!!きっとまた帰って来ますねー!」

 と笑顔で扉に入り扉は閉まる。俺は何も出来なかった。ヘルロフもミナミが抱きついているので邪魔出来なかった…。


 俺たち家族も日食が終わることを上の兵士に告げられ仕方なく眠るしか無かった。

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