戻ってきた聖女達

 タカエ達が扉に入り時は残酷にも過ぎて行く。ヘルロフとミナミは


『何も出来なくて済まない…』


『きっと戻ってくるわ。魔族は長命なんでしょ?気長に待ってみたら?私は400年という時間のせいですっかり肉体は溶け切って思念だけになっちゃったけど…あの子達なら力を合わせれば何とかなるんじゃない?』

 と暗い俺たちに向けて励まして二人は天国に旅立って行った!


 モーリッツや勇者達なんか魔族じゃないし、今更人間の国に帰れないし更に暗い影が差していた。今やモーリッツの作った変身薬で魔族として隠れて生活している。


 可哀想に思った魔王様が特別に城で働かせてやる事にして勇者達は城でひっそり暮らしている。


 モーリッツは仕方なく俺たちと暮らすことにした。相変わらずの態度だが、俺たちに一応血を提供してくれる。


「やっぱりタカエやサオリの血の方が美味しかったね。男女で差があるんだね」

 とフランツが言うとモーリッツはポカリとフランツを虐めたが後でぶっ飛ばされて逆に泣いていた。


 エミ叔母さんとフーベルト王子の結婚式が開かれた。叔母さんは吸血鬼なのでもちろん夜に行われて家族も出席した。

 叔母さんは綺麗な黒のドレスを纏い美しく笑っていた。モーリッツが


「流石魔族!純白ではなく黒とは!葬式か!」

 と無礼なことを言っていた。人間は真逆で白いドレスを着るらしい。

 そうか…ならタカエもウェディングドレスは白の方が喜ぶのかもしれない…。

 と悲しくなった。


 タカエのことは1日も忘れなかった。

 俺と一緒に過ごした日々。一度だけ愛し合った事とか。


 日々は過ぎて行き、たまに妖精族の里を訪れた。妖精女王となったチェルシーは体調を回復させ悪政を正し魔族との和平条約を決めて、以前より魔族との交流も盛んになってきてカップルができることもあった。魔族は夜の方が活動しやすいこともありどうしても夜型になる妖精族の嫁は多かった。


 フランツも妖精族の女の子数人に囲まれて仲が良い。こいつの将来が心配である。


 お祖母様は王妃様とお茶飲み友達になり良く魔王城に招待されるようになりその度に今まで服に興味無かったのに少し洒落をするようになり服代や化粧代に金がかかるという出費が!!


 俺はチマチマと換金して金を借主に返して行った。

 全部返すのに5年もかかった。

 ようやく一息ついている。


 でも俺の心は未だに虚しいままだった。


「ギルちゃん…他のお嫁さんを娶る?」

 と母上が心配し、


「やだ、ギル!まだ諦めてないの?男のくせに!ダメね!」

 と時々公爵夫人となった叔母さんがからかいに来る。


「………ほっといてくれ…。俺は何年でもタカエを待つよ…な、モーリッツ、お前が骨になっても一緒に待とう」

 とモーリッツの肩を叩くと


「こうなったら俺も吸血鬼にしてくれ!長命になってサオリを待つんだ!」

 と言うが皆は嫌がった。


「やだよ…お前なんか家族に迎えたくない…」


「一緒に暮らしているんだから家族だろう?」

 と聞くが


「「「いや、モーリッツは使用人兼血の提供者なだけだから」」」

 と皆は割り切っていた。モーリッツはガクリと膝折れた。


「給料一切貰っていないと言うのに!!」

 と泣いた。


 それでも少し家族達はモーリッツとも普通に仲良くなった方だ。モーリッツはこれでも人間の中では凄い魔術師だったから狩は魔法で行い上手かったからフランツにバカにされつつも一緒に獲物を撮ったりした。モーリッツは人間だから食事が必要だしな。


 そんな時妖精の里から使いがやってきて正面の罠に引っかかってぎゃーーー!と叫んでいた。


「あーあ…久しぶりに罠にかかったアホンダラがいるべ」

 と助けてやるとベタベタになった妖精族の使いが言った。


「大変です!扉が開き、聖女達3人が戻ってきたのです!!」

 と。

 な、何だってーーー!?


「待て、開いた!?5年ぶりだが…タカエ達が戻ってきた!?」


「本当か!?サオリンもか!?」

 とモーリッツも驚く。


「本当です!!5年で身体も溶けずに何とか皆帰ってきたのです!今は療養中です!」

 と言った。

 俺は家族やモーリッツを連れ妖精族の里へ急いだ!!


 勇者達も魔王城から駆けつけた。叔母さんとフーベルト公爵もやってきた。


 皆は愛する女達の元に急いだ!!

 俺はタカエの部屋に飛び込んだ!!


「タカエ!!」

 と扉を開けるとタカエはスゥスゥと眠っていた。もう夜中だもんな。検査を受けたのか疲れて薬で眠っていると伝えられた。

 朝になると俺は地下に行かなくてはならない。

 でも戻ってきたことに嬉しくて泣いた。

 明日の夜になったら目を開いてくれる!!


「タカエ!こんなに早く戻ってきてくれてありがとう!!大好きだよ!」

 と寝ているタカエの額にキスする。

 タカエは相変わらず可愛い。夜明け近くまで側にいたが地下に戻り眠ることにした。モーリッツ達はそのまま側にいれていいな。


 客様の棺桶をチェルシー女王が用意してくれたので安心して眠る。明日にはタカエと喋れるのだ。と期待しながら寝た。



 *


 月が登り俺はタカエの部屋に行く。フランツが


「兄上!良かったね!今日は邪魔しないからゆっくりしてね!」

 と嬉しがった。

 俺はタカエの部屋をノックした。

 タカエはまだ薬でボーッとしていたが俺を見て起き上がりベッドから落ちそうになったから慌てて駆け寄り支えた。


「タカエ!無理をするな!あの扉の中で過ごしていたんだろう?」


「………ギルベルトさん…正確には私達祈りながら世界を見守って汚れを一生懸命に掃除して天国に浄化したの。…前のミナミさんて人は昔の人だったからきっと掃除機の存在を知らなかったのよね。…あのね、なんとあの中ではいろいろと想像したものが手に入ってね…安優香はサボりがちだったけど私達頑張って400年分の汚れを吸い取りまくってピカピカにしたの!!」

 と言う。一気に言い、タカエがむせたので水を飲ませたら目が輝いた!


「み、水美味しい!!本当に夢じゃない!私達帰ってきた!!このギルベルトさんも夢じゃないのね!?」

 と言うから俺は優しく抱きしめた。


「当たり前だ。俺は5年経ってもそんなに姿は変わらないだろ?長命だからな。モーリッツなんてすっかりヒゲボーイだし長髪も切ってしまったぞ?今頃サオリも驚いてるに違いない!」


「まぁ!見るのが楽しみ!!」

 と言うので俺はタカエに5年ぶりに口付けた。


「タカエ…おかえり。今は俺だけを見てくれ…。他の男のことは考えるでねぇ!」

 と言うとタカエは久しぶりに照れて嬉しがった。それから俺たちは久しぶりにイチャイチャしたし、たくさん話した。

 タカエに食事も少しずつ与えたりした。

 身体が弱ってないか検査結果は明日出る。

 あの扉の中では何も食べなくても平気だったらしい。

 夜明け前には俺は地下へ行くが名残惜しいとタカエはくっ付く。可愛い。


「タカエ…また明日の夜来る。朝になるから。タカエはまだここで療養しないとな」


「はい…。ギルベルトさん…」

 タカエはそうだと指先を少し切って俺の口に入れた。久しぶりのタカエの血だった。優しく少し吸い上げた。美味しい!!


「ありがとう!タカエ!!」

 と嬉しくて何度もキスをして俺はまた明日とお休みを言い、陽が昇る前に地下へと降りた。

 タカエが戻ってきたんだ!!本当に!!

 俺はこの5年間ずっと苦しくてよく眠れなく酷い顔色できっと周りを心配させた。


 タカエと再会できて久しぶりに安眠できたのだった…。明日もずっとずっと一緒にいる…。そう願い眠る。

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