壁ドンに挑戦する長男

 その夜俺は何とかタカエに声をかける。

 そもそも大きな箱を持っているから流石のタカエもなんだ?と感じたのだろう。


「タカエに…これ…」


「え?プレゼントなら受け取れません!!しかもそんな大きなの!!」

 と家計を圧迫したのかと勘違いされる。


「違うんだ!これは!あのフーベルト王子からだ!家族全員分夜会用の衣装を用意してもらったからタダなんだよ!それでこれがタカエの分ってこと!」

 するとタカエはうーんと考えて


「夜会?でも私みたいな人間が魔族の夜会に出席してもいいのでしょうか?しかも私は家畜と思われているらしいので…」

 と言うが俺は


「いやいや、実は…夜会はもちろんだが、フーベルト王子がどうやら魔王様にタカエ達のことがバレたらしくて、それで異世界のことについて呼び出されたんだ。だからタカエも行かなくちゃならないと言うか…迷惑だろうけど…」

 と言うとタカエもおずおずドレスの入った箱を受け取ってくれた。


「ありがとうございます…」

 と申し訳なさそうだ。


「いや、こちらこそすまない…。か、帰れるといいな!」

 と俺は言いタカエから離れた。

 するとタカエは


「あのっ!ギルベルトさん!!…私!その…いつもごめんなさい…は、花も…そんな意味だとは知らずに。


 でも…ギルベルトさんに私なんか勿体ないですよ!」


 え?

 何で勿体ないのか俺には判らない。


「ごめんなさい…でも…ギルベルトさんは…私がオーク体型のままだったら…きっと恋愛対象には見ていなかったと思いますよ?」

 と言われて俺は脳天がガーーンと殴られたような気がした。


 そんな、そうだろうか?

 いやそんな!

 太ってた時だってタカエは可愛かったぞ!?

 それに努力して痩せたのをずっと見てきたからタカエは偉い。


「や、やっぱりこれお返しします…。誰か他の人に贈ってあげてください…。ほ、ほらリコさん?でしたっけ?悪魔の子?わ、私なら…ドレスとかもっと普通のボロイ布で簡単なの作ってみようかな…」

 とタカエが言い、箱を返して去ろうとするタカエに俺は…


「ま、まま待つだ!!」

 とドンと壁に手を置いて逃げ道を塞ぐ。タカエを逃さないよう…。


 というかこれ壁ドンというやつ!?

 しまった!無意識に!!

 壁に穴は空いてないな!?よしっ!!

 でも少しミシっていった!!おのれドワーフ!欠陥住宅じゃないだろうな!?


「ひ!あの!ごめんなさい!何か怒らせました!?」

 とタカエは若干怯えた。


「ち、ちが!怒っていない!違うんだ!お、俺はタカエにドレスを着てもらいたいんだ!!た、頼む!タカエしか女性は誘わない。……サイズもタカエのものだし!」

 と今更ながら俺はタカエとこんな間近で喋りドキドキしてきた。

 タカエも赤くなり目を必死で逸らそうとしていた。


 俺はタカエの頰をこちらに優しく向けさせた。


「はうっ!?ぎ、ギルベルトさんっ!?」


「タカエ…頼むよ…一緒に夜会に行こう…。大丈夫…俺がずっと付いてるから他の魔族には手出しさせないよ!人間を見ると家畜やら餌やらと見て来ると思うけど…俺たち家族は違うから…


 そ、それに…」

 と俺はタカエの目を見つめた。タカエがビクリと少し跳ねた。逃げられないのでタカエはどうしようかとおろおろしている。


 可愛いな。


「タカエ…も、もうきっと俺の気持ちはバレているから言うけど…タカエが…タカエのことが好きなんだ!!」


「!!」

 言った!とうとう!!

 タカエが真っ赤になっていくのが判ったし俺も心臓が落ち着かない。

 それにさっきから頰に手を置いたままなので…こ、これから俺はどうすれば…

 ああ、タカエの頰とても触りごごちいい。すべすべだ!さすがタカエ!


 となんかさわさわと頰を撫でているとタカエは真っ赤で動かなくなった。

 心臓が一際大きく跳ね、どうしようもなくタカエが愛しくなる。

 勝手に口が動き…


「タカエ…す、好きなんだ」

 と言葉を紡いでいてタカエは俺の目を見るしかない。可愛い円な黒い目だ。サオリも黒目黒髪だけどやはり俺はタカエの方が好きだ。タカエの髪は肩まで伸びている。


 俺の方が当然身長は高いしタカエは下から見上げるようになっていたので自然と上目遣いになっているんだがそれがびっくりするくらい可愛かった!


 ヤバイ…これは。

 まずい…。抑えられるか!?


「タカエ…ごめん…」

 と一応断りを入れ俺はミシっとする壁を一瞬忘れてタカエにキスを迫ってしまった!


 しかし…キス寸前で唇を近付けた所で…力を入れ過ぎたのか気合を入れ過ぎたのかわからないが壁にヒビが入りビシビシと音を立てて穴こそ空かなかったがボコンと手がめり込んだ!!


「ぎゃっ!!ぎゃあ!!」

 そしてめり込んだ手が取れなくなる!!


「ギルベルトさん!?大丈夫ですか!?」

 タカエは我に帰りパッと俺から離れた。


「ぬ、抜けない。いや、抜けるだろうけどこの手抜いたらヤバイ!」


「何がでしょうか!?」

 とタカエは訳がわからず聞いてくる。

 が、俺は想像できた。この手抜いたら…


「こ、この手抜いたら!!家が傾くだ!!」


「えええええええ!?」

 とタカエは驚く。どんだけアホなんだと思われたかも!!くっ!なんかもう先ほどとは違う恥ずかしさでいっぱいだ!もう俺を見ないでタカエ!!惨めすぎる!!

 やはり俺には壁ドンもキスも無理!!

 告白は何とかしたけどもうそんな雰囲気じゃなくなったし!


 なんてことだ!


「ううう!」

 俺は情けなくて泣けてきた!


「ちょ!ハマった手首の所から血が出ています!早く抜かないと!」

 とタカエが心配した!


「ごめん!なんと情けない!!」

 すると家族たちが聞き耳してたのかドヤドヤ入ってきた。

 父上は間抜けな俺を見ると笑いを堪えて無言だった。震えて目を逸らす。

 フランツは


「兄上…ぶははは!!」

 と正直に笑い、叔母さんも同様に笑い


「ギル!貴方!何なの?後少しだったじゃない?なのに!」

 とバカにされ…母上は


「あらあらギルちゃん…可哀想に…ソッと抜いてね?」

 と同情と心配をされモーリッツはいつも通り


「何て間抜けな魔族だ!!こんなヤツもいるなら勇者の王子も倒しやすいと思うぞ!?」

 と普通に罵倒しサオリは


「やめなよリッちゃん…」

 と諫めていた。


「サオリンがそう言うならやめりゅ…」

 とか気持ち悪い口調になるモーリッツ。後でこいつ殴りたい。

 お祖母様は呆れて


「とにかくさっさと取りな!バカだね全く!じいさまのドジが映ったのかね?」

 と言われてしまった!


 そろそろとなんとかゆっくり手を動かして見るとズズっとなんか家が揺れた。ひいいいい!!

 そして時間をかけて何とか周りをもう一つの空いてる手で爪を伸ばしてカリカリと削り続けてようやく無事に家を傾かせずに抜くことができた。


「んはーーーー!!疲れたべ!!だけんど家が無事で良かった!!」

 と言うとタカエにバチンと頰を叩かれた!

 ええ!?皆も驚く。タカエは怒っていたし泣いていた!


「タカエ…」


「ギルベルトさんのバカ!!家より怪我…血が出ていて痛かったでしょう?」


「いや、タカエ、こんなのすぐ治る…」

 事実もう傷は塞がりかけている。それでもタカエは僅かな傷跡に手を添えて完治してくれた。

 タカエの力が暖かい。


「あ、ありがとう…」

 と礼を言うとタカエは涙を擦り赤くなった目を向けて


「いくら吸血鬼は傷が治ると判っていても全く怪我に気を払わないのはどうかと思います!いいですか?普通の人間は怪我をしたら中々治らないものです!何週間から酷いものだと数ヶ月はかかります!


 こないだだってギルベルトさんがく、串刺しにされていた時は私とてもショックでした!治ると判ってても!」

 とタカエが言う。

 お祖母様は


「タカエは優しい子だね。…さぁ皆。野暮だよ。もう聞き耳するんじゃないよ。タカエもそろそろ素直におなり?」

 とお祖母様は言い皆と共にまた部屋を出て行く。


 えっ!?この状態で2人きり。いやさっきもだったけど…き、気まずい!!

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