タカエは気付いてしまった

「タカエ?」

 と寝巻きのままのタカエを見る。

 どうして夜中に起きてたんだ?俺が買い物に行ってる間に何があった??


 タカエはなんかあわあわしていた。家族達はニヤニヤしておりなんか企んでいる?

 モーリッツについては縛られて転がってるがもはや突っ込まない。

 サオリも起きている。


「おいお前ら…何を話していた?」

 と聞くとタカエは慌てて


「お休みなさい!!」

 と俺の部屋にバタンと駆け込んで行った。何なんだろう!?


「あーあ、聞かれたね…」

 とフランツは笑った。


「だから何が?」

 お祖母様はため息を吐くと言った。


「タカエはギル坊が自分を好いとると気付いたようだよ。私達が話してるのを聞いてたようだ…」


 えっ!?

 俺は耳を疑った。

 タカエ…俺がタカエのことを好きなことを知ったのか?は、はああああ!!?


「ど、どういうことだよ!なんでそんなことを話してたんだよ!!」

 人がいない間に何やってんだ!この家族たちは!!


「いや。兄上があんまり可哀想で…家族会議をしてたんだよ…」


「うるさいな!お前らが話さなければバレなかったんべ!?なんてことしてくれたんべ!!明日から気まずくなるべ!!」

 俺は頭を抱えたが叔母さんはポンと手を置き、


「まぁ、良かったじゃないの。あの世界一鈍いタカエがようやくギルの気持ちに気付いてくれたみたいだし?後はギルが壁ドンとかしてやればいいのよね?サオリ」


「は?壁ドン??なんだべそれは?」

 というとサオリから壁ドンの方法を聞いた。


「そんな偉そうにしたら怯えるだけじゃないか!?後、俺が壁ドンなんかしたら壁に穴が空くど!!お前らバカか!!」

 と言うと全員黙った。

 サオリは


「いや、そんな壁に穴空ける人、うちの世界にはいないし」


「吸血鬼が壁ドンなんかしたら穴空くわ!!力加減とか言っても難しいぞ!?」

 と壁ドンを全否定する俺にサオリは泣きそうだ。


「じゃあ、顎クイは?好きな人の顎をクイっとしてときめかせるの」

 とサオリが夢見るように言うが


「いや、そんなのタカエの顎が外れる」

 と言うと


「だからいちいち何なのよ!この怪力一族!!外さないようにしなさいよ!!貴恵さんを病院送りにでもしたいの!?」

 と怒鳴られた。


 *

 次の日から夜起きるとタカエは挨拶こそしてくれたが俺を避けるようにサオリと喋ったり叔母さんと喋ったりフランツに文字を教えたりしていた。


 ラジオタイソウもこちらを見ることなく続けられる。まぁ、いつもそんなに見てないけど。

 それでも気まずそうに目が合うと避けられるしその日から花を受け取らなくなったのが何よりも俺はショックでこのまま灰になってもいいとさえ思った…。


「タカエに嫌われたべ」

 もはや俺はフラフラと買い物に出かけて虚な顔でいつもの店員から人間用の食料などを購入した。


「どうした兄さん?顔色も悪いぞ?うちの夢魔を貸そうか?」


「やだあ、もうこいつに関わるのは嫌よ!」

 と以前催眠にかけられた悪魔族の夢魔リコがプリプリと怒っている。家族に手酷くやられたからトラウマになったのかも。


「兄さん今日も花あるぜ?」

 俺は店主の勧める花を見たが…首を振った。


「いや…いい…も、もう…要らない」

 店主は何か察してくれた。

 俺はタカエに嫌われている。

 俺が渡したら迷惑なんだ。

 ズキリと心臓が痛み…俺は荷物を持ちフラフラと帰った。


「ありゃ重症だな…別の女でも紹介してやった方がいいかね?」

 と店主がリコに言うと


「あたしの昔の仲魔…サキュバスならいるよ。同じ夢魔だけどあっちは相手の生気も吸い取るからあまりお勧めはしないけど…」


「そりゃ兄さん本気で死んじまうぜ?」

 とぼやき仕事に戻る二人。


 *


 それからもタカエは俺を見ると逃げるように避けた。俺はラジオタイソウや血を貰う時だけしか姿を見せることなく過ごした。挨拶も無くなった。元々吸血鬼は夜に起き朝に眠るし人間は朝起きて夜眠る生物なのですれ違いは必須だ。


「兄上…」

 とフランツや家族が同情するのが判る。


「ギル?早まって朝陽を浴びようなんて思わないのよ?」

 と叔母さんが揺する。

 いつもイチャイチャしているサオリやモーリッツ、父上や母上も流石に気遣って俺の前でイチャつかなくなったのはいい。


 そんな時フーベルト王子がやってきた。


「やあ!久しぶり!ハニー!!エミーリア!元気かい!?」

 チュッとキスしようとして流石に叔母さんにも止められていたので王子は不満だったが、俺の様を見て勘が良く


「何?ギルベルトもしかしてタカエに振られたのか??」

 直接ではないが振られたのと同じだ。俺はグサーと心臓に杭打たれたような気持ちになり無言になった。デリケートな部分を言い当てられ


「……どうせ俺なんて…」

 と壁の方に向かいいじいじいた。


「うわっ、ご、ごめん!!そ、そうだギルベルト!俺頑張ったんだぜ?数ある禁書コーナーを探しまくってさ、やっと手掛かりを発見したんだけど……」

 と歯切れが悪い王子。


「どうしたの?フーベルト様…」

 と叔母さんが問うと王子は叔母さんの肩を撫でて


「そ、それが…不味いことに兄上達に見つかって問い立たされて…父上にもバレて…叱られた。そしてお前らのことや異世界から来たタカエ達のことも喋らさられて…も、もちろん言うつもりは無かったが父上の側近の悪魔の術で自白させられた…」

 とフーベルト王子はしゅんとした。

 流石チャラ王子。


「王子…それで…私達はどうなります?それにタカエ達を差し出さなければならないのですか?」

 と父上が言うとフーベルト王子は一通の招待状を取り出した。


「ヴィンター家とタカエ達人間に招待だ。近々魔王城で夜会が開かれることになった…。父上達が話をしたいからと…」


「そ、そんな!!や、夜会ってあの夜会!!?」

 母上がパニックになる!


「どうしよう!服がないわ!!ドレスなんて!!」

 と青ざめる女性陣。


「いや、服は俺が用意しよう。心配するな。もちろんエミーリアには最高のドレスをプレゼントする」

 と言うとエミ叔母さんは目を輝かせた!


「きゃあ!嬉しいですわ!フーベルト様!」

 る

「いいんだよ!美しいエミーリア!ああ、着飾った君を他の奴には見せたくない所だが…仕方がない」

 とイチャイチャし出した。


 おほんと父上がボソボソと耳打ちし二人はようやく離れた。たぶん俺を気遣ってだ。

 一家全員招待ということに驚いたし緊張する。初めての夜会だし。金は出さなくてもいいとしても…周りから貧乏のヴィンター家を知ってる貴族もいるし、もしかしたら借金借りてる貴族達もそんな参加する金があるなら返せと言ってくるかも!!


 エッカルトおじさんの他にもいろいろな所に借金あるもんな…。もちろんタカエの紙を換金し金をいくらかは毎月それぞれの所に返済はしているが流石に一気には無理だしまた王子に助けてもらうのは違うので王子がまた肩代わりしようかと言っても俺は断り続けていたのだ。


「夜会かあ…」

 するとお祖母様が


「ギル坊…この事はお前からタカエに言うんだ。ドレスを渡す時にね!」


「でも…俺はタカエに嫌われております」

 と言うとお祖母様は笑う。


「嫌われている?本当に?タカエから聞いたのかい?恥かしくて避けているだけかもしれないよ?」


「そんな…あんなあからさまに避けられているのに?」

 現にタカエは俺が話しかけようとするだけで逃げる。


「壁ドンでもして話しな!もちろん優しく壁に穴を開けないようにね!いいねギル坊!!」

 とお祖母様が命令したので俺は逆らえなかった。


 しばらくして王子から皆に夜会用のドレス等が全員に送られてきた。高級な衣装にフランツも目がチカチカしていた。


「うわぁ!絶対に血を溢したりしないようにしよう!!」とフランツは心配した。吸血鬼には上級魔族の血などが用意されているのだ。もちろん何処かから連れてさってきた人間の血もあるだろうけど…。

 俺はもうタカエの血しか飲みたくない。


 どうやって誘おうかドレスを見てため息をついた。

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