タカエに告白したい長男

「異世界のことは禁書調べてくるから待ってろよギルベルト」

とフーベルト王子が協力してくれることになった。

タカエは喜び


「ありがとうございます!」

とお礼を言った。

…やはりタカエは帰りたいのか。

そ、そりゃそうだ!俺だって突然異世界に召喚されたら帰りたいに決まってる!


…タカエが帰ってしまうなんて…。

心臓がズキリと軋む。

どの道帰ってしまうのなら俺の想いを何とかタカエに伝えたい…。

しかし…どうすれば。花を渡す?

でも…タカエは花を渡す意味を知らないだろうし…。


それにタカエが元の世界に帰ろうと言うのに伝えてしまったらタカエが困ることになる。


そもそもまだ帰れるかどうかも判らないのに、早まって玉砕したら俺は立ち直れるか判らない。タカエだって人間でいたいに決まっている。


俺は考え込むようになった。

フランツが少し心配したが大丈夫だと言っておいた。


グジグジと煮え切らない俺についにお祖母様がキレた。


「ギル坊…何をしてるんだい?さっさとタカエに想いを告げればいいだろう?何もしないのが1番悪い!」


「で、でもお祖母様…。俺タカエに何とも思われていませんよ…。お祖母様はお祖父様から告白をされたのですか?」


「そりゃあそうだよ。若い頃の私は美しかったからね!私の時代は魔族と人間の争いが今より激しくてね。毎日どこかで血が流れていたもんさ…。


人間を襲う魔族部隊も編成されて…私とじいさまは同じ班にいて仲良くなったのさ。最初は友達みたいなものだったよ。ギル坊とタカエのようにね。


まぁタカエほど鈍くはなかった私は貧乏なじいさまが私に毎晩綺麗な花を摘んできてくれて好意を寄せられたよ」

とお祖母様は懐かしそうに語った。俺とお祖父様は性格が似ているそうだ。


「じいさまもあちこちから金を借りていていつもヒーヒー言っていたよ。私も貸したことあるんだよ…『お金が無いから上等な花をあげれないけど俺をあげることは出来る』とか何とか言ってたよ。バカだね」

と言って笑った。


「………タカエは俺が花をあげてもきっと気付かないよ…」


「そうだね…世界が違うんだ。お前は花の意味をタカエには言うつもり無いんだろう?」

お祖母様は見透かして俺の背中をポンポンと叩いた。


「………はい。でも花は渡します…」


「そうか…頑張りな!」

バシンと叩かれて俺は決意した。伝わらない告白をしよう。


それから俺は毎晩起きると買い物のついでに花を持ち帰りタカエに渡した。


「わあ!綺麗!!ありがとう!ギルベルトさん!!」

タカエはただのお土産と思っているようだ。

それでもいい。毎日俺は花を渡し続けた。


流石にモーリッツとサオリは気付いた。二人にはちゃんと予め口止めした。サオリはこちらに残るから花の意味を理解していた。

何で言ってはダメなのかと問い詰められたがタカエは元の世界に帰るのだ。


困らせてはならない。だから花を渡すことで俺は精一杯だ。好きだと口から言うことは無い。

フランツや家族もそれを見守ってくれた。

俺はいい家族を持ってる。だからタカエがいつかいなくなっても大丈夫…。


いつしか俺の部屋は花だらけになって行った。手狭になると他の場所にもタカエは枯れるまで花を飾ってくれた。


「ギルベルトさんは花が大好きなんですね!」

とタカエに笑われる。


「うん、そうなんだ!タカエも好きかな?」


「ええ!でももうお花屋さんになりそう!」


「それはどうかな?安い花やただの野花も混ざっているから…」

花を見て微笑む。

花の数は足りないくらい俺はタカエが好きだ。告白をしたいけどできない。


フランツは時折


「ぎいいいいいい!!!」

ともどかしくジタバタしていた。


タカエやサオリ…ついでにモーリッツが寝入り、ギルベルトが日課の買い物へ魔族街に出かけた後…家族は3階に集まった。


「家族会議だ…」

とファビアンが手を組みため息をつく。

妻のコルネリアも珍しく浮かない顔だった。

祖母の見た目幼女のマルレーンは飾られた花を見る。


「随分増えたもんだね。花が」

と言うと叔母のエミーリアは


「それだけギルが本気だって事よ。でも肝心のタカエがなぁんにも知らないなんて!」

フランツは


「やっぱりタカエに教えようよ!こんなの兄上を見ているだけで辛いよ!」

と言う。それは皆同じであった。


エミーリアは


「フーベルト様が今城の禁書を手に入れる為に頑張っておりますわ…」

と言うとコルネリアは


「でもぉ…それじゃあ元の世界にタカエが帰っちゃうわ…その前に何とかならないのかしら?」

するとファビアンは顔をしかめる。


「コルネリア…タカエにも向こうの世界に家族がいるんだろう?もし私達が知らない世界に行って家族に会えなくなったらどうするね?タカエはいつも笑ったりしているがきっと寂しいと思うぞ?」

と言うとフランツは


「タカエは…うちとももう家族じゃないか!僕はそう思う!家族が二組いたっていいじゃない!僕は寂しい!」

と目を潤ませる美少年。


「やれやれ仕方ないねぇ。あんた達はタカエを戻したいのか戻したくないのかい?サオリを起こして来な。あちらの世界の告白を聞こう」

と祖母のマルレーンが言い、フランツが寝ぼけまなこのサオリを起こしに行ってモーリッツもくっ付いて戻ってきた。


「こんな夜更けに我らだけを呼びだすとは!やはり我等の血を吸い尽くす気か!魔族!」

とモーリッツが言うが無視してサオリに質問するマルレーン。


「サオリ…あんたらの世界ではどんなプロポーズが一般的なんだい?」


「え?そりゃ…指輪よ。まず婚約指輪で結婚の約束をして…結婚式に結婚指輪を交換して結婚するの」

と言うので拍子抜けした。


「アクセサリーだって。そんなのこっちの人間が結婚する時とあんまり変わらないんだね」

とフランツは興味なさげに言う。サオリは


「あら?花なんかより形に残るからいいわ」


「そうだそうだ!バカな魔族め!宝石には石の意味もあるんだ!!貧乏なお前たちには判らないだろうがな!」

とモーリッツが口を挟んだ。

モーリッツは猿ぐつわをかまされ喋れなくされた。


「でも…普通ならいきなりプロポーズなんて引くわ!だって私も貴恵さんもまだ17歳だし結婚できる年齢じゃないし、それに普通はプロポーズより先にお付き合いよ。恋人同士になるのが先じゃない?」

それを聞き家族はギョッとした。


「何?お前たちの世界は17で結婚は早いのかい!?なんて遅い!!」


「こっちじゃ16歳からでもおかしくないよね」

とフランツが言うとサオリは


「そりゃこんな中世みたいな世界じゃそうだろうけど、私達の世界では普通は20歳超えてからが一般的ね。30までに結婚できれば良い方なの。日本の法律よ!」

と言った。


マルレーンはドサリと椅子に腰かけるとため息をつく。


「結婚に急いでない世界って事だね…。20を超えたらなんて…遅すぎるよ…ギル坊は可愛そうだね」


「でも一応18歳になると結婚はできるわ。法律で決まってるし」


「ふーん、じゃあともかく後一年はタカエ結婚できないんだ。ならそれまでにギルと恋人同士になってしまえばタカエもサオリみたいに帰りたくなくなるかもよー?」

とエミーリアが名案だとばかりにパンと打った。


「まぁ、ギルベルトさんほどカッコいいなら口説けば貴恵さんもグラグラするかもだわ。そうね、やっぱり定番の壁ドンかしらー?」

とサオリはポーとする。


「なんだい?その壁ドンとは?」


「文字通り壁にドンと好きな女の子の逃げ道を塞ぎ近づいて甘い台詞を言うのよ!」

とサオリはきゃーきゃー騒いだ。


話しているとギルベルトが買い物から戻ってきてサオリとなんか縛られたモーリッツを見て


「何してるんだ?おい…?サオリ達人間は夜中だろう?」

と不思議がった。

その時ガタンと後ろの扉から音がしてそちらを見たら…なんとタカエがあわあわとしていた。


家族達は思った。タカエ…聞いてたのかな?

と。

ギルベルトは一人首を傾げた。

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